管理人・白野 識月<シラノ シキ>の暴走度90%の日記です。 お越しのさい、コメントしてくださると嬉しいです。
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他の誰からでもなく、

君に祝ってもらえるだけで 僕はそれだけでいいんだ

小さな小さな苺のショートケーキ

「おめでとう」

「産まれてきてくれてありがとう」

その言葉が一番のプレゼント






今日人生で初めてってくらいたくさんの人にお祝いされました。
恥ずかしくてむずがゆいです。
でも嬉しいですよね。
お祝い。



・・・・・・なのですが今日は近藤さんの命日。
ってわけで小説です。
近藤さんと沖田。


















純粋で無垢な君のためなら、何でもできると思うんだ。





夜明け前





人の気配で目が覚めた。けれど室内には人がいる様子は無い。
目が暗闇に慣れるまでじっと待ってみるがやはり、室内には自分以外に誰もいない。
それならば、もしかして幽霊─────?
ぞわぞわと背筋が粟立つ。築何十年かは知らないが、それなりにこの家屋は古い。この家で死んだ人が居る、とは聞いた事はないがもしかしたらそういった類のモノがいるのかもしれない、この部屋に。
どうしよう、と焦ると今度はすすり泣くような声も聞こえてきた。

(こりゃ本物のオバケだ─────)

どちらかと言えば、苦手な部類だ。虫とか目に見える物ならまだいいのだが、存在自体が微妙な物をどう対処すればいいのか分からないのだ。だから、怖い。
とはいえ、幽霊に遭遇するのは初めての経験だ。怖い物見たさ、という言葉があるように、声や気配だけでなく会ってみたいと思う。
やけに自分が落ち着いてることに少し驚きながら耳を澄ます。どうやら、障子の向こうから聞こえているらしい。
幽霊相手に、とも思うが一応、竹刀を片手に持ち、足音を殺して障子の前まで向かう。
ゆっくり深呼吸を一度して、サッと障子を開く。

「・・・」

「・・・総悟」

口をへの字に結んだ総悟が、目をうるうると潤ませ立っていた。
親の形見を抱いているかのように枕を強く握り締めている姿は比類がない程可愛らしい。

「どうした?」

「・・・一緒に寝てくだせェ、近藤さん」

垂れている獣耳の幻覚が見えた近藤は慌てて目を擦る。
怖い夢でも見たのだろうか、憐れみを誘う小さな体を抱き寄せ近藤はぽんぽんと蜂蜜色の頭を撫でる。
普段は如何に大人ぶっていようが総悟はまだ幼い。ぶっきらぼうな性格の所為で同年代の友人がいなくて、近藤のような年上に囲まれているからそのことを失念しやすいが。
あやすように背を撫でてやり、力を入れすぎないよう優しく抱き締める。
薄い肩が安堵したように上下に動いた。

「俺がいるからな、総悟」

「・・・うん」

「ずっとずっと、傍にいてやるから」

「俺も、近藤さんを守れるぐらい強くなって、ずーっと一緒にいまさァ」

顔を上げて真摯な眼差しで頑張って背伸びしようとしている、といった風に言う総悟に近藤は微笑んでそうだな、と呟いた。



「総悟~」

「ん~。近藤さん、どうしたんで・・・?」

寝起き独特のかすれた声で返答した総悟に苦笑を漏らしつつも、近藤は自室へ入り後ろ手に障子を閉じた。
遠くから微かにホトトギスの鳴き声も聞こえてくる。総悟に会ってから幾度目の春だろう・・・・・・感傷に浸りかけて、苦悩しつつも総悟を起こした事を思い出す。

「トシがな、お前のこと探してんだよ。見廻りサボりやがって、って。今すぐ行って謝ってきなさい、ね? 見付かったら総悟も俺も怒られちゃうんだから」

「え~。俺ァ近藤さんの部屋にいてぇんでさ、近藤さんと一緒に。だから待ってたってのに・・・」

すねた表情に胸がきゅんとときめく。
可愛すぎるのだ、仕方がない。と総悟の傍らに座り込み、さらさらと流れる髪を指で弄ぶ。いつの頃からか待つことだけでなく自ら寄ってくることを憶えたこの猫は相も変わらず暇さえあれば近藤の部屋にいる。
近藤がいないときは土方の部屋に行ったりしているようで、そのことに軽く嫉妬してみたりもするが、敢えて気にしない。
すりすりと身を寄せてくる総悟と温いこの部屋で昼寝したいと思うが、問題は先送りにすべきではないという。なだめるように声をかける。

「謝りに行くぞ」

「ヤでさァ」

「そしたら、見廻りがてら甘味処に行ってやるから」

「・・・本当に?」

その手の言葉に幾度か裏切られたことのある総悟は胡散臭そうに近藤を見上げる。近藤に言わせてみれば急用が出来た、総悟から見れば“浮気”なのである。大概が目的地に着く前にお妙に会ってしまう。一人置いてきぼりの総悟は大抵、土方が迎えに来るのだ、何故か。
今度こそは、そういうことないようにするから。
と近藤は微笑を浮かべふてくされる猫に言った。

「それなら、いいですぜ」

気だるげに総悟は伸び、ゆるゆると立ち上がる。
身長差は大分縮んできた。けれど肩口に届くか届かないかのしなやかな髪は、あの頃からずっと、近藤の心を惹き付けて離さない。

総悟を守るためならばなんだってできる─────。

そんなことを思いつつ、斜め前を行く総悟の後を追う。
風に乗り、陽気な鼻唄が耳に届いてきた幾度目かの春。





#53
嘆きつつ ひとりぬる夜の 明けくる間は
いかに久しき ものとかは知る
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