管理人・白野 識月<シラノ シキ>の暴走度90%の日記です。 お越しのさい、コメントしてくださると嬉しいです。
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『寅』というラーメン屋さんのラーメンは安くておいしいです。主にとんこつラーメンが(味噌も塩も食べたことありませんが)。餃子もおいしい。私の口にあうようにできています。


明日から現実逃避に千葉へ行こうと思っています。とはいっても一切支度をしていない、ていたらく。
楽しみですね。






それでは久々。馴染みの三人で百人一首。














きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに
衣かたしき ひとりかも寝む





中和反応





一つとして欠けることがあってはならないんだ。

だって俺らはマブダチだから。




「花明! 花明!」

「何だよ桂介……」

伏せていた顔を上げると真っ正面に桂介の顔があり、ギョッとした。桂介には失礼だが突然目の前に顔があったならば誰でも驚くと思う。
HRが始まる気配さえも無くて、昼休みからの記憶が全くない俺は、どうせならHR終わってから起こせよとムッとする。昨日は徹夜と言っても過言ではない程寝ていない。細やかな睡眠を邪魔するのならば例え親友であろうと許せない。
そんな俺に気付かず、桂介は続ける。

「睦流が今日、休みだったんだよー」

「…俺ら皆同じクラスだろ。そんなん知ってる」

だから何だ。と威圧的に言うと流石に起こした事を悪いと思ったのか、桂介はごめんごめんと苦笑しつつ謝る。
心狭いのかもな、俺って………。

チャイムが鳴り、担任が教室に入ってきたが桂介は話す気満々らしい。俺の前の、自分の席に後ろ向きで座ったまま目を爛々と輝かせている。

「お見舞い行こうぜ」

「見舞い?」

「睦流ン家、行ってみたくねぇ?」

その言葉に好奇心が疼いた。
睦流は立ち振る舞いや、噂からしていいとこの坊っちゃんだろう、と思っていたけれど。その真偽を見極めるいいチャンスかもしれない。噂は噂でしかないのか、はたまた事実なのか。桂介がわくわくしているのはそのせいか。と漸く分かった。
起立、と響いた声に合わせ立ち上がり、前に向き直った桂介の背に声をかける。

「いいぜ、行こう」




地図を頼りに歩いて来たが、若干道に迷った気がする。古い、歴史的家屋のような家が立ち並ぶこの近辺は歩いていてタイムスリップしたような気分に陥る。
多分、この辺りなのだろう、住所から。そうだとすると、かなり純和風な家系のおぼっちゃまってことになるのだが、何故彼はあんなにも色素が薄いのだろう。

「二番地…ってここら辺だよな?」

「多分。ってか、この区画、一軒しか家なくね?」

左手に広がる塀は、さっき角を曲がってから途絶えることなく続いている。中学校の修学旅行で行った、京都の古い家の塀そのものだ。
地図的にこの左側の家が睦流の家のようなのだが。

「まさか、な……」

「あ、花明。門があったぞ!」

何興奮してんだよと。呆れつつ桂介が指さした方向を見る。
─────門だ。
それも、木製の両開きの門で、端っこには小さな扉もついている。ドラマで見たヤクザの家の門と全く同じだ。門の脇には「日向」と記された木製の表札がある。
古めかしい門に不釣り合いなインターホンをじぃっと見つめていると、興奮してキョロキョロ門を見ていた桂介が口を開いた。

「やっぱ、此処だよな? 呼び鈴鳴らせよ」

「俺がぁ?」

嫌だけど、此処で押し問答をしてても仕方がない。意を決し、ボタンを押す。
何度かチャイムが鳴った後、はい、と女の人が出た。声的に若めだが、母親だろうか?

「あの、俺ら…睦流の友達で…」

『ああ、はい、ぼっちゃまの御学友ですね。どうぞ、中へ』

…ぼっちゃま。
…ってことはあの人家政婦か何か?

目だけで会話し、開く門の向こう側を見る。
日本庭園の奥には、引き戸式の扉があり、玄関を挟むようにして梅の木が植えられていた。

「すんげぇ…」

「マジでぼっちゃまなんだなァ、あいつ」

ガラガラ、と扉がスライドし、中からインターホンに出たのと同じであろう女性が出てくる。俺ら二人を見てニコリと笑い、彼女はさぁどうぞ、とスリッパを出す。彼女の後ろには、歴史の教科書に出てきそうな絵が描かれた屏風があり、奥の和室は何も家具が置いていなかった。

「お邪魔しまーす」

家政婦がいるなんて普通じゃないよな。こんな作りの家も普通じゃないよな。
と感動を覚えつつもスリッパを履いていると、奥からパタパタ駆けてくる足音が響いてきた。
そして、和室の奥の襖が開かれる。

「ぼっちゃま、寝ててくださいとあれほど…!」

「ぼっちゃまって呼ばないでくださいって何度もっ…!」

白い着物を着た睦流が肩で息をし、此方に向かいハァ、と息をつく。
やはり、寝る時は着物なのか。と変に納得した。

「来るなら連絡くれればよかったのに…」

「だってよー、驚かせたかったんだもん」

「…結果的に俺らが驚いたけどな。お前ン家、金持ちだったんだな」

「金持ちと言える程じゃ…。とにかく、部屋上がってください。…紫都さん、お茶お願いします」

「はい、ぼっちゃま」

今度はつっこまずに睦流はさっさと廊下へ消える。その後を俺と桂介は追い掛け、和室を通り廊下へと出る。
─────長い。
50mは楽にありそうな廊下をとことこと、睦流は歩いていく。俺らの足音以外何も聞こえなくて、夜はどれ程怖いのだろうか。日本家屋独特の雰囲気に気圧される。こんな家でよく生活できる。泊まるのでさえ俺には無理だ。
カラカラと襖を開け、睦流は促すように振り返り、立ち止まる。

「入ってください」

「んじゃ。おじゃまー」

「…すげぇ、質素……」

中央に布団が敷いてあり、床の間には一輪刺しが飾ってあるだけだ。午後の日差しを受け障子から柔い光が室内に入っているが、電気もつけていない部屋、それだけじゃ流石に暗い。
押し入れから座布団を二つ出し、布団に並べそれを置いた後、睦流は布団の上にペタリと座り込んだ。

「どうぞ、座ってください」

「ってかお前は寝てろよ」

「そうそう。俺ら見舞いに来たんだから」

「…それじゃあ、お言葉に甘えて」

横になった睦流に、桂介はごそごそ鞄を探り、次々にいろいろな物を取り出す。
団子に饅頭、煎餅、おはぎ、あんみつ、クッキーにチョコまで。それこそ四次元ポケットのように次々出てくる。
渦巻きの形をした棒付きの飴を最後に取り出したが、これは俺の。と前に取り出した菓子の類とは別に置く。
……何しに来たんだ、こいつ。

「どれ食いたい? 食いたいだけ食っていいぞ。ほら、花明も」

「…いただきます」

パクリと、睦流は饅頭にかぶりつく。
ちょうどその時、襖が開き、紫都と呼ばれた家政婦が盆に茶を乗せ入ってきた。
近くで見ると、意外と若い。二十歳ぐらいなのだろう、明るく、可愛らしい顔をしている。

「初めてですねー。ぼっちゃまの御友人が家に来るなんて」

「どうせ友達少ないですよ。紫都さんは友達が多すぎるんです」

「そういう意味じゃないですよ? 私はそのままのぼっちゃまで良いんです」

「もう! お饅頭あげますから出てってくださいっ」

カァァ、と頬を染め、睦流は乱暴(それでも俺からしたら丁寧なのだが)に饅頭を渡す。クスリ、と彼女は笑い、失礼しますと襖を閉じる。
照れ屋なんだな、睦流は。誉められたりすると直ぐ頬が紅潮する。
饅頭にかぶりついていると睦流と視線が絡み、未だ赤い顔をしながらも睨まれた。

「何です?」

「別にぃ。お前みたいな奴にも可愛いとこあんだなーと」

「何言ってんだよー。睦流は常に可愛いじゃねーか」

「ちょっ…!! 二人とも何言ってんですか!」

桂介が言うと冗談に聞こえない。だからこそ益々睦流は赤くなり憤慨する。
面白い。純粋だからこそ素直に冗談を信じてしまう。

「冗談だよなー、花明」

「冗談だぜ。本当、面白いなぁおまえって」

「からかわないでくださいっ」

ふん。と睦流はそっぽを向く。

─────やっぱり、三人揃わなきゃな。
先程は居心地悪かったのに、三人でいるからだろうか、この部屋は温かく感じる。
必要なんだ、俺にとって二人が。





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