管理人・白野 識月<シラノ シキ>の暴走度90%の日記です。 お越しのさい、コメントしてくださると嬉しいです。
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雨の中走ったら案外涼しくてびっくりした識月ですおはようございます。
あ、勿論傘はさしてましたよ。
とにかく涼しくて驚いた。
紫陽花もより綺麗に見えますし雨っていいですね。





それでは遊郭ネタの続き。





















冗談だろ、そう返すと意地の悪い笑みではぐらかされる。
居場所を調べられるなら性別ぐらい分かるだろうに、何で態々面倒な事をするのだろうか。風太郎の人間性が若干分からなくなった。

「・・・何処にいんだよ?」

「此の街に」

「吉原に!?」

それじゃあ。
この街にいるということは、それなりの仕事をしている、ということを表しているではないかと、愕然とする。
きっと彼女の母親である親父の妾も、此の街で働いていたのだろう。家を出て、行く宛ての無い彼女の母親は彼女を連れ戻って来、そして何らかの事情で彼女まで働くことになった。
なんて不幸な。まるでドラマではないか。

「菊姫って知ってっか?」

「菊姫・・・ってアレ、時雨屋のとこにいる菊姫?」

廓にも格がある。
上から順に大見世、中見世、小見世となっていて時雨屋という廓は上等の大見世に分類される。
その時雨屋の菊姫といえば、今吉原で一、二番目に有名な女郎じゃないだろうか。
“晴れの時雨に月の菊”
誰が言い出したかは知らないがそう呼ばれている彼女は去年辺りに禿(女郎の付人)を上がったばかりで、女郎の中では新人であり客を取らなければならないのだが、何故か毎夜毎夜、路に面した二階の部屋の窓辺に座っているのだ。何をするでもなく、じぃっと。
月の光りに照らされた容姿は比類の無い程美しいだとかで、その無類の美貌に彼女を買おうとした金持ちが幾人もいたが廓がそれを許さないらしい。そういった類の噂が客を呼び・・・と時雨屋の前は毎夜人垣に囲まれている有り様だ。
このまま吉原の都市伝説にでもなりそうな勢いである。

「その菊姫がそうだ、つったら信じるか?」

「信じるわけねぇだろ。・・・でも嘘じゃねぇんだろ? お前くだらない冗談言わねぇし」

「言ったら聖羅容赦ねぇんだもん。一回ホントに死ぬかと思ったことあんだぜ?」

「ありゃあ、お前が悪い。牡丹が花のまま落ちるとこ見た奴は一ヶ月以内に死ぬとかふざけんなって話だろ」

「信じるとは思わなかったんだよ~」

昔話に花を咲かせかけてふと頭が冷静にツッコミを入れる。話が可也それている。
閑話休題、菊姫について、そしてこれからどうすべきかを考えなければ。
肉親だというのだ、助けてやりたいがそう容易く助けられるものではない。
一度この街に入った娘が此処から容易に出られないのは江戸時代の吉原と変わらない。
死ぬか、身請けされるか。その二つしか方法は無い。
だからといって身請け出来る程の大金が俺の懐にあるわけでもなくて。

「風太郎、そこらで一千万ばかし借りて来い」

「それもう死刑判決に近いよね。借りられるわけねぇよ。俺の収入は毎日漸くメシを食っていける程度・・・」

「ハァ? 毎日毎日T◯UTAYAでDVDレンタルしてる金があんなら返せるだろ」

「おまえっ、水戸黄門様を侮辱するのかッ!? いくら聖羅でもそれは許せねぇよ、俺」

キャンキャン喚き始めた風太郎の頭にげんこつを振り下ろし、思案に耽る。
どうしようか、といっても残る道はあと一つ。
成功する確率が零に近い程低い、アレしかない。

「強奪、といくか・・・」

「えぇぇぇぇ!? ムリムリムリ!! 成功するわけねぇだろ、無理だよ! 一応聖羅が警察官だろうと・・・」

「一応って何だ。それにな、職業柄、抜け道だとか侵入しやすい場所だとか知ってんだぜ?」

「・・・捕まったら、どうすんだよ」

「そんときゃァそんときだ。いっちょ、吉原相手に大暴れしようぜ」

「・・・断ったって無駄なんだろ。わかったよ、でもどうなっても知らないからな」

そう言ってくれると思ってた。
笑顔で言うとチェッとすねたようないじけたような、妙に子どもっぽい呟きが聞こえてきた。





さて、実行はするとは決めたが成功させるには緻密な作戦が必要だ。と、会合(とは言っても二人しかいないのだが)を重ねること数回、時雨屋への侵入方法や手順、月の無い夜に実行するなどといった予め決めておくべきことは決まった。
店の者が巡邏するのは二時間おき。十時に彼等が見回った後直ぐに、時雨屋の敷地を囲う塀に開いている小さな穴から忍び込む。その穴はいつだか俺が仕事で吉原全体の巡邏をしているときに偶然見付けたもので、内側からは茂みにより見えず、外側からは看板により隠されていて体格の良すぎるヤツじゃ通れないが、俺や風太郎ならば通れる大きさだった。

「・・・でもさ、その塀の穴って見付けたら店側に教えてやるべきなんじゃねぇの?」

「次の日報告書書こうとしてそのまま忘れたんだよ。いいじゃねぇか、こうして役に立ってんだから」

「何でお前が警察になれたのか不思議に思うよ」

「頭がいいからだろ」

一蹴して開け放した窓の向こうを見る。天気予報では明日は曇るといっていた。そうなれば、決行は明日になる。
その所為か、一抹の不安が胸の内を漂う。
今からしようとしていることはエゴでしかない。彼女は、出ることを望んでいるのだろうか。エゴを押し付けてるだけなんじゃ、と。

「・・・本当に菊姫が兄弟なんだろうな」

「本当だって。・・・それに、彼女は聖羅が兄ちゃんだって知ってると思うし」

どこからくる根拠なんだと問おうと思ったが別にそんなことどうでもいいかと聞き返さなかったがペラペラと風太郎は話し出した。
風太郎が聞いてきた話によると、彼女は一度、同じ時雨屋の女郎に「山吹聖羅という人を知らないか」と聞いたことがあるらしい。聞かれた女郎は俺が警察官で吉原支部にいることを知っていて彼女にそれを教えた、というのだ。

「どっから仕入れたんだよ、そんなムダ知識」

「まぁ、色々とツテがありますからね、聖羅クンと同じで」

誇らしげに言う頭に理由もなく苛立ちいつものように拳を振り下ろし、思う。
自分が閉じ込められている鳥籠に、兄である人間は仕事だとはいえ、自由の身であり己の意思でいる。妬ましいと、疎まれてはないだろうか、俺は。

「菊姫もお前と同じくらい頭良さそうだから大丈夫だよ、多分」

ハッと顔を上げると風太郎は殴られた直後だというのに優しい笑みを浮かべていた。
子どもの頃から、風太郎は俺の考えを呼んだかのような言葉を紡ぐことがある。それも決まって焦燥に追われているときや、何かに危惧しているときで、本当に心を読まれているんじゃないかと何度も疑ったことがある。

『大丈夫だよ、聖羅』

幻聴のように聞こえた言葉を、俺は二度言われたことがある。
二度目は、目の前にいる風太郎だと覚えているのに、一度目はいつ誰に言われたのか、記憶に穴が開いたかのように覚えていない。

いつ、誰に―――――。

どうでもいいことなのに、何故か引っ掛かる。

わだかまりを抱いたまま次の朝を迎えることになる。





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なんかずれてませんか、この話。
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