バレーボール見てました。ヘタ・・・じゃないイタリアに勝てましたね。よし。
イタリア好きですよ。南と北じゃ趣向が違う。
それでは漸く完成した誕生日ネタ。土方は沖田のお兄さん気取り的な?
僕が未だ幼かった頃
姉上と二人 秘密の約束をした
「あなたしか愛さない」
と、交したあの約束を二人して破ってしまったけれど
愚かしいことに 僕らは未だそれを守り続けている
胡蝶夢心中
チリリーンと風鈴の音が響いて目が覚めた。若干蒸し暑いけれど、音のお陰で体感温度は少し、低い。
どうやら今日は晴れたらしい。障子からは柔くだが朝の日差しがさしている。
―――――七夕はね、織姫と彦星が年に一度だけ会える日なのよ
幼いころ教わったその話を、ロマンチックだとは感じられなかった。
悲劇でしかないじゃないかと、思った。愛する人と傍にいられないなんて、地獄だと。一年に一度だけじゃ足りないと。
今でもそう思っているけれど、願いが一つ叶うというのは喜ばしい。
布団から抜け出そうとすると、障子の向こうから人の気配がした。
「・・・山崎か」
「あ、起きてますか? それじゃあ開けますね」
微弱な音をたて室内へ入ってきた山崎は、くたくたな茶封筒を持っていた。朝っぱらからなんのようだろうと思っていたけれど、どうやら、またパシられたようだ。
一週間前の会議のとき、会議が終わった後近藤さんは俺らに短冊を渡した。
『何か一つだけ、願い事書けば叶うらしいからよ、隊士皆のを叶えてもらおう』
土方はちっとも知らなかったのか、少し苦い顔をしてそれからその短冊をまじまじと見てから、チラリと此方に視線をやった。
あの、視線の意図はなんだったのか、だなんて。
考えはしないけど。
はい、と裏返しの短冊を渡すと、山崎はそれを手に取り、裏返しのままそれをじっと見た。
「なんて書いたんですか?」
「何、知りてぇの?」
「えぇ、まぁ・・・」
「山崎の想像通りでさァ」
やっぱり、と安堵したような苦悶しているような妙な表情を一瞬浮かべたあと、流石監察、何も無かったように失礼しましたと去っていった。
それを見届けてから隊服に着替えて食堂へ出ようとするとそのタイミングで障子が開いた。
目の前の人間が驚き、息を詰める。
「見回り、行くぞ」
「へい」
ポーカーフェイスでそう告げ背を向けた土方の後に続き顔を洗ってから外へ出る。
朝飯食ってねぇのにな、と思いながら玄関から外へ向かい歩いていると近藤さんが庭に突き刺さっている大きな笹を眺め立っていた。昨日まではあんなところにあんなもの無かったから、きっと七夕の為だけに用意したのだろう。近藤さんらしい。
「なんか飯、食うか」
「んじゃあ、キャビアを」
「ざけんなっての。・・・蕎麦でいいか」
「えぇ、美味きゃ何でも」
それなりに傷は塞がったと思っていたのにな。と思いながら疾うに綺麗になっている頬を撫でる。あの時は、この傷に感謝した。
顔に傷を作るような野蛮なことを、姉上はしない。
だから、傷がすっかり綺麗になってからも暫く、絆創膏を貼っていた。
姉上は、もう。
―――――今年からもう、姉上には祝ってもらえないんだ。
そう気付いたら胸から大切な何かが落ちてしまったような気がした。
今更、喪失に気付くとは俺は相当鈍い。
「―――オイ、大丈夫かよお前」
「え? ・・・ああ、平気でさァ」
ズズズ、と蕎麦をすすり再び食べ始めると訝しげな視線を向けていた土方も食べ出した。
“もういないんだ”と理解していた。会いたくても会えないし、電話だって通じない、手紙だって、戻ってきてしまう。
―――――今年は浴衣を送ります。私のとそーちゃんの、色違いにしてみたの。少し可愛すぎちゃうかもしれないけど、着てくれたら嬉しいわ。
去年もらった姉上手作りの浴衣は確かに少し可愛すぎる柄だったけれど黒地だったし気に入って、非番の日に一度だけそれを着て祭へ行った。近藤さんとか隊士に好評だったそれは、箪笥の中に綺麗にたたんでちゃんとしまってある。
今年は近藤さんからしか祝ってもらえない。
「・・・お前、熱でもあんじゃねぇの? さっきからボーッとしてんじゃねぇか」
「別にンなことねぇですよ」
かけられた声に驚いて立ち止まる。けれど即座に否定したから大丈夫だろう、と再び歩き始めるとポス、と前から手が伸びてきて額に触れた。
端正な顔を心配そうに歪めている土方さんを見て、胸が切なくなった。
心配をしないで。俺はもう誰かを守れるぐらい、強くなったんだから。
守るものなんて、何もないけれど。
「・・・俺、ちょっとサボりやす」
「えっ? あ、オイ総悟っ!」
パタパタ、と朝だからか人通りも少なく、活気のない町中を走り抜ける。目的地なんて、ない。宛もなく、ただ、一人になれるところまで。
俺にはもう、何もない。
帰る家も、温かく抱き締めてくれる人も。
俺は近藤さんを守りたいけれど、近藤さんは守られたくないんだと言っていた。
共に立って、共に戦ってくれるだけでいい、と。危険なときは助けあったりして。だから、代わりに、犠牲になんてならなくて、いいのだと。なってほしくはないのだと。
でも俺は、それぐらいしかやれることがない。だから。
俺なんかいなくたって。
がむしゃらに走って、辿りついたのは広い川原だった。
河川敷へ下りて川の中を覗き込む。キラキラとお日様を浴び輝く水の色は胸の切なさを倍増させた。
「僕、姉上以外の誰も好きになったりしません」
「まぁ、嬉しいわ。なら私も、ずっとそうちゃんだけを見てる」
夕暮れ時の川原で、手を繋いだまましゃがみこんだ姉上にありったけの想いを込めてちゅ、と口付けた。驚いた表情を浮かべた姉上は微笑んでありがとうと言って、口付け返してくれた。
あの後近藤さんに出会って、土方が現れて、あの約束はただ胸の中に残る挿話になってしまったけれど。
いつまでもこの胸にはあるから。
「総悟」
「っ!」
声のした方を向くと、橋の上に見慣れた人間が立っていた。逆光で顔は見えないけれど、耳に馴染む声は彼のもの。
何で、こうも容易く見付かってしまうのか。怒っているのか大股で此方へ降りてくる彼から探し疲れたという印象は受け取れない。走ったのか、息はきれているけれど。
「どうしたんだよ、急に」
「別にどうもしてやせんぜ。あんたこそ、何追ってきてんでィ。いつもは放任するくせに」
「・・・たまには、いいだろ」
良くないから言っているのに。
ハァ、と聞かれないよう溜め息を吐いて、背を向けて座り込む。流れる水の青をじいっと見ていると隣に、土方が座った。
何で視界に入ってくるんだ、とか思いつつ、体育座りした膝の上に額を当て瞼を閉じる。
漆黒の世界に、声が侵入する。
「傍にいなきゃ、守れねぇだろ」
「は、」
「今度こそは、傍で守るって決めたんだよ」
「なに言って・・・」
そんな、ことを。
驚いて顔を上げるとこれ以上無いぐらい優しい目をした土方が慈しむように俺の頭を撫でた。
よしよし、と撫でる指先に涙腺がおかしくなりそうでその手を払うと払った手を捕まれてギュッと握られた。
「明日誕生日なんだろ? 何が欲しい」
知っていたのか。と目を丸くすると土方は微笑んで俺の頭を抱き寄せた。
鼻孔一杯に広がる煙草臭さは意外にも嫌いじゃなくて、逆に何故だかホッとした。
「・・・・・・副長の座」
「アホか。やんねぇよ」
「じゃあ、何もいりやせん」
「・・・そうか」
今だけは、と背に腕をまわしてしがみつくと上から小さな笑い声が聞こえた。
暫くして屯所へ戻って玄関の戸を開けると、ッパーンと爆発音がした。
なんだ、と目を丸めていると近藤さんや山崎、一番隊の奴らがクラッカーを持って立っていた。
「え、・・・え?」
「誕生日おめでとうございます隊長!!!!」
野太い大きな声で言われた言葉に思考が止まる。にこやかな皆の顔を見渡してから、隣に立つ男の顔を見る。
「皆で準備してたんだよ。お前にバレねぇように、な。たまにはこんなのもいいだろ?」
「・・・」
「まぁ、言い出しっぺはトシだけどなァ~」
「綿密に計画練ってましたしね~」
「ちょっ・・・!! 言うなっての近藤さん! 山崎死ねてめぇ!!」
意外と、思っていたよりも自分は大切にされていた。
なんて気付くのが今更過ぎる。鈍感、なんだと再自覚。
「ありがとう、ごぜぇやす・・・」
「っ隊長~~!!」
わぁぁぁ、と集まってきた一番隊の隊士から女子プロレス観戦券とか色々受け取っているとポンポンと頭を叩かれた。
「ほら、宴会やんぞ」
「土方さん、まだ真っ昼間ですぜ?」
「たまにはパーッとな! トシ、総悟。明日非番にしといたからどんどんのんじまえよ」
―――――今日は好きなだけ食べてね、そうちゃん
ガシガシ頭を撫でる手はあの人のものよりも大きくごつくて、痛いぐらいだけど。
幸せだ。
あの頃と、同じぐらい。
―――――おめでとう、そうちゃん
微笑み、抱き締めてくれるあの人はもういないけれど。
この胸の中に、確かにいる。
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