↑なんか小説のタイトルに出来そう(笑)
郵便局の職員になるのもいいかもな、と思いました。けど漫画家になりたい・・・画力もセンスも何もないけど。
遊郭ネタが出来たのでアップしようと思います。予定じゃ次で終わり。
参
いつもより強く感じる風に髪が舞う。両親の髪は漆黒なのに突然変異か金に近い茶の髪を耳にかけていると、十時を告げる鐘が鳴った。ゴォン、ゴォンと重く、それでいて澄んだ音は毎日一時間毎に鳴るので数えきれない程聞いているのだけど、不思議と心惹き付けられ、意識を向けていると、背後の障子が開かれた。
「菊姫」
「何です?」
またお目付け役が来たかとこっそり溜め息を吐く。
見張りなんか無くったって、逃げやしない。否、逃げられない。母のように見請けされる事なんて考えられなくて、これから一生死ぬまで、此処でこうして生きていくんだと本能的に分かっている。
だけど、求めずにはいられない。
此処から連れだしてくれる誰かを。
*
「準備はいいか?風太郎」
見回り当番の本来なら仕事仲間である男二人組が通り過ぎるのを路地から見届け、背後で同じように様子を見ている風太郎に尋ねる。
夜目がきくと子どもの頃から言われてきていたが未だ衰えてはいないらしい、月が無く街灯も少ないこの裏路地でも十二分に辺りが見える。昔はよく夜道で悪戯をしたな、と何だか懐かしくなる。
「ダメって言ったって行くんでしょ。いつでもバッチコイ」
「よし、」
それじゃあと、看板を静かに退かし塀に開いている穴に体を滑らせる。続いて入ってきた風太郎に中から看板を戻させて、茂みから顔を出す。
朱色のきらびやかな外壁はライトアップされていて、そびえ建つ摩天楼のように見えた。
―――――今になって漸く、自分が如何程危険な大罪を犯そうとしているのか思い知る。
それでも、分かっていてももう。
止められない。
伸縮する電動の梯で二階まで上がる。時雨屋には一度も来たことは無いが、どの廓も造りは変わりはなく、物置として使われている空き部屋へと足音を殺し入る。
「姫が居る部屋ってどこなの?」
「此処の左の部屋だ。人来ねぇか見っけど、お前も気ィ付けろよ」
「わかってるっての」
襖を音をたてずに開けるのは慣れている。5cmばかし開け、隙間から手鏡を少し出し様子を窺う。
誰も、いない。
廊下を駆ける足音も、無い。
「行ってくる」
低く声を掛けると同時に襖を開け、廊下を無音で駆け角部屋である隣室に飛込む。
隣室の障子を開けた時に襖を閉じる音が耳に届いた。
此処までは、予定通り。
何か起きるとしたらこの後だ。
現に、予想が若干外れている。作戦に支障をきたす程ではないのだけど、この部屋の造りが。
普通、障子を開けたらすぐ部屋なのだけど、一畳程の板の間がありその奥に更に、障子がある。
厳重、よりもそれだけ上等な者がいるようにしか思えない、扱い。
何かありそうだが、今はそれを詮索している場合ではない。
一息ついてから障子を開け、正面を見据える。
―――――月も堕とせてしまいそうな美姫が、そこにいた。
開け放しされた格子窓の向こう、目の前の妓楼から入る明かりと月の光以外光源も音も無い部屋の中、刹那驚きに見開かれた射るような瞳が、強烈に熱を放つ。
「兄上・・・」
「菊姫、か・・・?」
錦糸を紡いだような腰まである髪を緩く後頭部で束ね、窓枠に気だるげによっかかっている彼女はとても妖艶だ。深紅の単から覗く細い手足や首筋は透き通るように白い。
そして何より人形のようなかんばせに目が奪われる。
キリッとした柳眉、ふっくらで艶やかな朱唇。黒目がちな瞳の存在感が。
“菊姫”の名にふさわしい。
「何故・・・此処へ? 此処へは誰も入れない筈・・・」
「二択だ。俺らと外へ出るか、此処に残るか」
え、と小さな呟きは暗闇の中に消える。悩むような沈黙を、外の騒がしさが掻き乱す。
十、九、八・・・・・・
三、二、一・・・
「行きます、連れて行ってください」
十数え終わると同時に真っ直ぐと強く彼女は此方を見つめる。
―――――嗚呼、この瞳だ。
最初の記憶の和服を着た女性はやはり、彼女の母だったのだ、と確信し其れ程まで瓜二つなのかと思い知る。
何故親父はこんなにも美しい母子を手放したのか、疑問でならない。もしも俺が親父の立場なら、親子共々自分が死ぬまで手放したりはしないのに。
過ぎたことを今更掘り返しても仕方がない、それにこの鳥を、吉原という籠から放つのは俺だ。短期間でも彼女は自分の手中に収まる。
「声上げたりするなよ、珠羅」
「はい」
吉原で育ったからか身のこなしが上品で立ち上がる姿にさえ見惚れる。
所謂お姫様だっこの形に珠羅を抱き、人影に注意を払いつつ、風太郎の待つ物置へと戻った。
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区切る場所が若干おかしい。