寝つけません・・・。うとうとを幾度か繰り返すうちに目は覚める・・・。
百人一首アップし忘れていたのであげときましょう。
明日デスノ見るぞ~!
風そよぐ ならの小川の 夕ぐれは
みそぎぞ夏の しるしなりける
夏の断末魔
そうだ。こいつは昔から―――――
歌舞伎町という町中を歩いているのに何故か、林に居るような程の蝉の声に息が詰まる。
死ぬその刹那まで泣く、その心意気は認める。けれど、人に迷惑はかけないでほしい。煩くて堪らない。体感温度が五度程上がる気がする、というか絶対上がる。
「あちぃ・・・・・・」
「・・・」
上着を脱いでもダラダラ汗が流れるというのに、総悟はかっちり隊服を着て、いつもの涼しげな顔をしている。鈍い、の一言ですむのだが、それで片付けるのはもったいない程の無表情だ。
「お前・・・暑くねぇのかよ」
「土方さん、煩すぎまさァ。暑苦しい」
「可愛げねぇな」
「当たり前だろィ。俺は男ですぜ」
無表情の瞳が、何かを見つけた。途端に年相応の顔付きに戻る。とてて、とおかしなはや歩きで道端へ向かう。
何があるのか気になって、俺もその後に続いた。
「どうした」
「いや、蝉が」
しゃがみこんだ小さな背の向こうを覗き込むと足元に蝉の死骸が横たわっていた。
夏の終わりの恒例行事・・・とまではいかないが、このぐらいの時期になると毎年このようにして蝉の死骸が道端に転がっている。
そう、当たり前のことなのだが。
「弔いましょう。庭に墓つくりやす」
「お前・・・」
昔から変わらないのはその見た目だけではないらしい。
「あっ、せみ」
「それよか今は、」
暑さに頭がやられそうだ。そろそろ髪も切ろうか。いや、でもばっさりいって後悔するのも嫌だ。やっぱ服を変えるべきだったか。とはいっても、黒い着流ししか持っていない。
「また、せみ」
「・・・早く帰ろうぜ」
玄関先で何度も繰り返された言葉を脳内で反復する。
帰るまで手を離すな。一秒でも離したらその途端に行方不明になるから。
前にそうなった事があるらしく、いやに真剣な表情で言うもんだから素直に頷いてしまった自分を過去に戻り殴り飛ばしたい。
繋いだ指から伝わる体温は決していやなものではないが、じっとりと汗が滲むのはしょうがなく、苛々は募るばかり。
「ねぇ、せみ・・・」
「わかったよ」
手を離そうとしたがぎゅっと強く手を握られ道端まで引きずられる。しゃがんだ拍子に腕が抜けそうな程引っ張られ前屈みになった。
袴の裾を泥で汚し、何のためにそんな死骸を拾う?
丁寧に蝉を撫でる小さな指先に、目線だけで問う。口には出せない、それはきっと優しさからの行為だと思うから。
丁寧に手の中閉じ込めた蝉を愛しそうに眺める総悟を不思議な気持ちで見た。
「あっ、また、蝉」
とてて、とまた道端に小走りする後ろ姿を見送った。
此処から屯所まではまだ十分程歩く。屯所につく頃には、総悟はどれ程の蝉の死骸を手に持っていることだろう。もしかしたら、俺も持たされるかもしれない。
「なぁ」
「何ですかィ」
「何のために拾うんだ?」
「何のため?」
きょとんと、ツチノコでも見たかのような顔で総悟は平然と言った。
「そこで死んでるからですぜ?死んだヤツには墓を作るべきでしょう」
あの姉の弟だ。優しいのは遺伝だろうが、その優しさってモンを俺に、その蝉に向けてる百分の一でも向けてくれないだろうか。
毎年夏の暮れに思うことを、懲りもせずにまた今年も思う。
#98
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