バスに揺られちょいと出掛けたのですが、華々しかったです。
咲き初めの桜、満開に近い桜、咲き乱れる木蓮にこぶしの花。散ってゆく梅もありました。
綺麗だなァ。
入学式まで持たなさそうだァ。
なんて呑気に考えていました。
にしても、木蓮って神秘的ですね。
あんな細い枝に大きな花がついてるんですよ。アンバランス。不自然極まりない。
それなのに綺麗なんですよね~。
それでは百人一首?百人一首。
命にかえてまで、守りたい人がいますか
滲んだ純白
「俺が代わりに死ねば良かったのに」
久方振りの声は抑揚が無く、こいつから感情という感情全てが流れ去ってしまったんじゃないかと思う程だった。
余命が短いと知ったのがつい数日前で、それから一、二回しか顔を会わせなかった。
それでも、喪失感は拭えないが後悔はあまりしていない。
やれることは全てやれた、そう思う。
葬式の間、涙一つ流さなかったのは俺と総悟二人だけだった。誰からも愛される人だったから皆が悲しむのは当然の事だ。
『養ってくれた人が亡くなったってのに涙一つ流しやしない。これじゃあ報われないってもんだよ。感謝さえできないのかぃ? 恐ろしい子だねぇ。』
知らない中年女性にそう言われても総悟はうつ向き黙ったままだった。その姿に、総悟に文句を言った女は更にまた何か罵り、去って行った。
話さないんじゃない。
泣かないんじゃない。
話せないんだ。
泣けないんだ。
悲しみが、大きすぎて。
煙草を灰皿に押し付け、くゆる煙が空へ消えるのを見届ける。
「・・・死ねば良かったのに、俺が」
無造作に投げ出していた足を曲げ体育座りし、総悟はギュッと足を抱き締め縮こまる。
子どもの頃から変わっていない。辛いことなど感情を胸の内に溜めて、その断片しか表に出さない。
─────何方にも死んで欲しくなんかない。
だから『代わりに死ねば良かった』なんて言わないで欲しい。
欲張りなのだと、分かっているけれども。
「そうしたら、悲しむ人が少なく済んだんでさァ」
「ンな事ねぇよ。俺も近藤さんも・・・とにかく隊士全員とミツバは確実に悲しむ」
「・・・姉上を悲しませんのは気が引けますねィ」
「だろ?」
「───でも、あんたは姉上に生きてて欲しかっただろィ?」
悲しみを讃えた瞳でじっと見つめられ、答えに詰まる。
正直、此方来る前だったら間違い無くミツバを選んでいた。
でも、今は。
総悟は真撰組に無くてはならない存在だ。剣の腕は誰よりも勝っているから、総悟を慕い入隊希望をするヤツだっている。
それに、ミツバの分まで守ると、決めたから。“副長”という立場を利用して。
「何方かなんざ選べねぇよ」
近藤さんにミツバ、総悟には他の誰よりも生きていてほしいと思うから。
その為に自分の死も厭わない。
今は、近藤さんを真撰組を支えなければならないから無理だけれど。
「・・・あんた、不器用過ぎたんでさァ」
「お前も似たようなもんだろ」
どこまでも真っ直ぐな彼女と、表面上は曲がりくねっているけれど、きちんと芯がある総悟。
血なのかは分からない。けれど信念を持っている二人は正反対のようでいて殆ど同じだ。見た目も中身も。
ミツバを好きだった。
そしてこれからも、その気持は変わらない。
その気持の分、余計に総悟を庇護しなければと思うのだが、もう彼は子どもではなく、その上俺よりも強い。
守りたいのに守れなくて、守りたいのに守る必要がなくて。
弱くて強い、俺の想い人。
もう会えないんだと思い知る。
「泣きたいなら、泣きなせぇよ。笑ったりしやせんから」
「泣けねぇんだよコノヤロー」
頼むから、労ったりしないでほしい。
いつも通り生意気な口きいててくれりゃあいいんだ。そうすれば、いつも通りの自分に戻れるというのに。
しおらしい総悟を見ているといたたまれなくなる。
「お前こそ泣きてぇなら泣けば? 大爆笑してやるよ」
「俺があんたの前で泣くなんてありやせんよ」
強がり並べて弱さを隠す。
俺が総悟に似たのか逆なのか。ともかく素直じゃない。
素直な人間だったなら、何も失わずにすんだのだろうか。
#45
あはれとも 言ふべき人は 思ほえで
身のいたづらに なりぬべきかな
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