「さァて・・・土方さん、どう致しやす?」
「何をだよ」
「・・・さっき言っただろィ?」
沖田は心の底から哀れむような視線を土方にむけた。
カカオ100%
「・・・何だっけ?」
頭を抱えて唸る土方を沖田は頬杖をつき、冷めた目で見守る。そして溜息を一つ。
「明日はバレンタインだから・・・」
「ああっ!!」
先程の話を聞いてなかったらしい土方は明日が十四日――――バレンタインだときいて青ざめた。昨年は散々な目に合ったのだ。
「・・・休むわ。明日」
「ンなことしたら呪い殺しやすぜ」
そうなった場合、土方家まで運ぶのは沖田なのだ。一昨年はそうだった。いくら土方が食べないから自分が代わりに食べる、とは言っても、一応名前を写しといてもらわなきゃ困るし、数を数えなきゃだし。
一昨年はたしか、三百個。年々増えていってるし―――――。
「・・・今年はお前も多いだろうな」
「・・・?ああ、ミスコン?」
昨年、女装コンテストで沖田が一位、土方が二位・・・となったのだが、毎年そのミスコンの上位三人は貰うチョコの量が増えているのだ。
「・・・よくあんなん出来たよな」
優勝者は女子の制服を着させられる、という約束事があるのだ。土方には絶対できない。
「制服着てつったってるだけで千円ですぜ」
たしかに、賞金は千円だったが(ちなみに二位は五百円)プライドとかねぇのか?
「・・・昨年は三百個も食っちまったしなァ・・・。今年は五百個いくでしょう?アンタなら」
「・・・ってお前、自分の食ってねぇの?」
「先生がCMの犬みてぇな目で見てきたんで全部やりやした」
・・・そうか。アイツにやる、ってのも一つの手だな。
「で、今年はどうしやしょう」
「俺は袋持っていくからいい。お前は?」
「俺ァ明日は弁当だけなんでさァ。手荷物」
「っておめー、鞄置いてきたのか?」
「そ。持ってくのめんどいし。行きだけでも軽く、と思いやして」
・・・鞄にもチョコは入るのに―――――。駄目だ。総悟の思考回路にはついていけねぇ。
「・・・勝負すっか。チョコの量」
「断然あんたが有利じゃねぇか」
たしかに、例年どおりならそうなのだが、今年は“ミスコン”効果もあると思われる。総悟は男子からもチョコを貰う――――かもしれない。
「少ないほうが勝ちならいいですぜ」
「あのなァ・・・」
「わかりやしたよ。勝ったほうが負けたほうのお返し分も買う、ってのは?」
「ああ、いいぜ」
二人は自信満々に笑いあった。
*
夕暮れ時の教室は夕日が射し込んでいて何もかもが橙色をしている。その中で二人は立ち尽くしていた。
「なぁ、総悟」
「へい、土方さん」
「学校で数えるか」
「へい」
―――――二人の目の前にはチョコの山が。
少女漫画でよくある、“下駄箱あけたら雪崩が・・・そしてチョコの山・・・”的なものを想像すればほぼそのとおりだろう。
「・・・数えやした」
「俺も終わった。とりあえず、食え」
このままでは持って帰れない。三百個ぐらいなら前例もあるし、持って帰れるはずだが。
「アンタ、何個?」
口の端に食べかすをつけたまま、総悟はまた新たに包みをあけた。山が見て取れるほど低くなっている。
食べるの、早過ぎねぇか?
「五百五」
「ふーん。俺はね、五百六」
ニヤ、と沖田は笑いまた包みに手をかけた。
ホワイトデーまでひっぱろうかな。