管理人・白野 識月<シラノ シキ>の暴走度90%の日記です。 お越しのさい、コメントしてくださると嬉しいです。
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入試、合格しました。








このさっぱりとした文面から私の心境を悟ってください。って無茶ですよね。



それじゃ、百人一首。病ネタです。








ひさかたの 光のどけき 春の日に
しづ心なく 花の散るらん





白亜の鳥籠





籠の中の鳥は自由を求め魂を解き放す。





死する者故の美しさがあるとすれば、彼女は幼い頃からその美しさを纏っていた。儚くて、消えてしまいそうな、そんな雰囲気も美しさも、病弱だったからこそのものだったのだと今になって思う。
総悟が高校へ通い慣れてきた頃、突然彼女は倒れた。
その頃は床に伏すことも少なくなっていて、病弱な体質も治ってきていると思われていたから誰もが驚いた。
見舞いに行ったある日、彼女は白い病室から開け放した窓の外を眺め、言った。

「私は大人になれるのかしら」

もう成人しているんだから大人だろう。そう返すと困ったように微笑んだ。彼女が言いたいのはそういう形式的なものではなくて。

余命が短いと悟ったのだろう。

「…ごめんなさいね、こんな…弱音みたいなこと言っちゃって」

「たまには、いいだろ」

「……そう?」

普段気丈に振る舞ってみせる彼女から聞いた唯一の弱音を昨日のことのように鮮明に憶えている。その言葉に、立ち尽くしたまま何も言えなかった総悟の表情も。
日に日に起きていられる時間が短くなっていって、目に見える程衰弱していった彼女を直視することが出来なくなった。総悟は怖かっただろう。自分の愛しい人がいつこの世を去ってしまうか分からなかったのだから。─────俺も怖かった。寝てる間にも電話がきたらどうしようだとか、不安で堪らなかった。

そして。

「……私、皆に会えて良かったわ、本当に」

そう言い残して、彼女は時を止めた。永遠に。
生きてて欲しかった。
もっと年とって、皆で昔話して笑いあったりしたかった。
葬式なんて行っても、実感がなかった。

死んでほしくなかった。誰よりも優しくて儚い、彼女には誰よりも幸せになってほしかった。幸せに、したかった。





「─────ヤな夢でも見てたんで?」

「…俺、寝てたのか?」

「えぇ」

ハァァ、と欠伸をして総悟は窓の外を眺める。その姿が彼女に重なって見えて、流石姉弟だなと変に納得する。
過去の夢を見ていた。といっても、彼女のことを思い出していた、の方が意味合いは近いのだが。
失う痛みを知っても、それを避けるべく行動することはできない。未来を、知っているわけではないし。だからといって、失うことに慣れる筈もない。ただただ畏れるしか、何も出来ない。

「姉上の夢を見たんでさァ」

「……お前もか」

「あんたも? 珍しいこともあるもんだ。同じような夢見るなんざ、そうそう体験出来やせんよ」

来るときに買った温かいココアは微かな温もりを残して冷えてしまっていた。片方を渡して、もう片方をよく振ってから開ける。自分には少し甘ったるい。コーヒーにしとけばよかった。
明日はコーヒーにしようと思ったが、来れないのだと思い出す。

「お前明日、卒業式だろ」

「あれれ。そうでしたっけ」

温もりを掬うように両手で缶を握り、じぃっと窓の外を眺めながら言う。その視線の先には何があるのだろうか。彼女と同じような瞳で空を羨ましそうに見ている。
総悟が入院したのは二ヶ月程前だった。都心では大雪がどうのと騒いでいた寒い日に、彼は姉と同じ病気で同じように倒れた。
だから、自分が辿るであろう未来の道筋を、行く末を知っている。
真っ白な部屋の中、彼は何を思い一日を過ごすのだろう。

「卒業証書、お願いしやす」

「言われなくとも持ってくるに決まってんだろ」

「……土方さん」

凛とした声が耳に馴染む。
死ぬことを恐れていないような所作に、俺はいつも戸惑ってしまう。怖くはないのか。この世界と決別することが。

「俺はあんたの知らないことを知ってる」

「……何だよ?」

「置いてく気持ちと、置いてかれる、気持ち。どっちもつれぇんだなって。……あんたはきっと、知り得ない」

「……」

怖くない、わけではないと、真摯な目が告げている。それでも恐れはしないのは逝った先に彼女がいると信じているからだろうか。
どうにか、死なずにすむ方法は無いのだろうか。もう二度と失いたくないのに、何もすることができない。
俺はあまりに無力で、ちっぽけだ。

「…俺と姉上の分まで、人生を満喫してくだせぇ」

「何言ってやがんだ。この馬鹿が」

そんな悲しいことを、笑顔で。

やはり、名前とは大切なものなのかもしれない。“総てを悟る”と書いて“総悟”。それならば彼女は、“小さな、ありふれたことを幸せとかんじられる”ように、“ミツバ”と名付けられたのか。

だから、この姉弟は醜く生に執着しようとはしない。
死にたくない、そう思っていても、人前にそれを晒さない。

「早く、こっから出てぇな………」

『早く、此処から出たいわ………』

姉弟揃って同じことを言う。本当に、彼は姉と同じ道を歩んでいるのだ。自らの意思とは裏腹に。
もしかしたら、後を追うことを総悟は望んでいたのかもしれないけれど。

「土方さん、今日あんた仕事だろィ。さっさと仕事に戻りなせェ。明後日、証書持ってきてくれりゃあいいから」

「……わかった。じゃあな」

病人にそう言われてしまったら素直に帰るしかない。身支度を整え、病室を出る。

本当は気付いていた。
己れの病気を受け入れると同時に、籠の中、檻から出ることだけを考えている鳥のように、総悟はただ待っているのだと。彼女はただ望んでいたのだと。
もう、誰にも迷惑をかけずにすむようになる時を。





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