受験前最後の小説アップです。
いや、あの、余裕とかじゃありませんよ。毎日毎日ちょっとした時間にうってたんです。塵も積もれば山となるんですよ。
数学の応用が全然出来ません。コレやばい。
だからこそ大詰めである来週は死ぬ気で勉強します。
それでは一応、バレンタインネタ。
人もをし 人も恨めし あぢきなく
世を思ふゆゑに 物思ふ身は
粉砂糖
カラカラカラ、古く軋む窓を開けてみるとうっすら、雪が積もっていた。
ハァァ、と吐いた息は見事に真っ白で、それを見て漸く寒さが体を襲った。天気予報じゃ暖かい一日になるでしょう、なんて言っていたのにどこが暖かいんだと何の罪もない天気予報のおねーさんに八つ当たりしてみる。彼女だって、渡された資料を呼んでいるだけなのだろうに。
ホワイトデーはバレンタインのチョコのお返しの日だ。ならば、雪が降り積もったバレンタインデーは何と言うのだろう? ただ、“ホワイト”をつけるだけなのか、それともクリスマスみたいに特別な呼び方が無いのか。
思考も大分スムーズになったとこで窓を閉め、布団に戻り、足に布団をかける。
やっぱ冬場は冷気を浴びれば一発で目が覚めていい。目覚ましをセットしても無駄な私は、大抵は無能な上司に起こされる。朝一で会うには不快な奴に起こされるのは気分いいものではない。
そろそろ、今日もまた来るだろう。
ギシッ、ギシッと規則的な間隔をあけ耳に届く足音は、この部屋の前で止まった。
「起きろー………って起きてたか」
「当たり前でしょ。こんな時間ですよ」
「いつもは起きてねぇだろ、お前」
呆れたようにそう言った後、ここからが本題だとでもいうように土方は咳払いし、表情を改めた。
「何ですか」
「今日、バレンタインだよな」
「………だから?」
どことなくそわそわしているのはその所為か。
理由はわかっているけれど、わざと未だわからないふりをして聞き返す。
チョコをあげる気なんて、さらさら無いから。
「チョコくんねぇの?」
「当たり前。あんたなんかにあげたらチョコが腐る」
「上司に向かってその言いようはねぇだろ。だから、“普段お世話になってますぅ”って義理チョコとかさ、」
「ありえませんね」
実をいうと、少しは悩んだ。やはり常識的にあげるべきだろうかと。常識的に─────つまり、“普段大変お世話になっている”人にはあげようかなと。
だから、近藤さんのは用意した。
チロルチョコの詰め合わせだけれどそれでも、きっと喜んでくれるだろう。きっと、“ありがとう”と温かな笑顔で受け取ってくれる。
で、問題は土方だった。世話になっているとは一切思わない。けれど“上司”という肩書きが向こうにはある。それだけでお世話になっているような気さえしてきてしまう。実質的にはそんなこと無くても。
というわけで散々悩んだ。
が、結局は買わなかった。
「お前…本当………ありえねぇだろ…」
「そうですかね?」
脱力し、くったりと障子によりかかる土方を見て何故そこまで凹むのか不思議に思う。私から貰えなくても、そこの団子屋の娘とか、薬屋の前に住んでいる娘とかから貰えるだろうに。
─────ああ、そうか。
どうせ今年もまた、新八とかとチョコの数を競っているのか。
去年は新八が惨敗し、一週間近く罰ゲームで猫耳をつけさせられていたような気がする。
くだらない、と思うけど傍観しているのは面白い。今年は土方が負けるといいのだけど、多少なりともモテる土方が平凡な人間である新八に負けるはずがない。
どうにか、手をうたねば。
「土方さん、チョコの数私と勝負しません?」
「…いきなりどうした」
「猫耳つけて巡回してる土方さんが見たくって」
「俺が負けるの前提の提案だよなソレ。誰がやるか」
「私が負けたら何でもしますよ。チョコくれっつうならあげるし、土方さんの靴に画鋲仕掛けたこととか、真夜中に目覚ましかけたこととかも謝ります」
「やっぱお前だったんだな? あの地味な嫌がらせの数々は。……仕方ねぇ。やってやるよ」
絶対に勝つ自信がある。
だからこその提案に易々とのってしまう土方は俗っぽくて浅はかで、この人らしい。“鬼の副長”なんて呼ばれて畏れられたりしているけれど、私から見たら誰よりも優しくて、何をしても最終的には甘受するただのお人好しだ。だからこそ、冷徹になりきろうとしている。……できもしない、ことを。
「土方さんは私らの中で一番脆い」
「はい? いきなり何言い出してんのお前」
「なんとなく」
だからこそ、私はこの人と喧嘩しながらも毎日毎日懲りもせず言葉を交しているのだ。脆くて弱い自分を晒けだそうとしない、この人だから。
#99
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