最近焼肉食べてない…………。
ぐーきゅるきゅるとお腹がなります。おなか減ったぁ。我が家は朝ご飯を食べません。朝ご飯と昼ご飯は同じです。体に悪いね。
それでは昨日予告していた百人一首。
めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬまに
雲隠れにし 夜半の月かな
50円。
ゆぅらりゆらり、バスに揺られて。
通学時に乗るバス。
必ずいつも、右側の一番前の席に座る。理由、なんてあんまり気にしてないけど、それは多分不器用だから。小銭の準備とか両替とかしてるとバスは扉を閉じ、発車する。ガタゴト揺れるバスの中、奥の方まで歩くのはいかに馬鹿らしいか。
どんくさい事を自負しているから、必ずよろめき、柱にぶつかったりするだろう。それが嫌。
それに、一番前の席は解放感がある。乗用車よりも巨大な窓は、中から見ていて清々しいのだ。
が、それは左側の席だけだ。右側の席は、前に運転手がいる。運転手をおざなりにすることは出来ない。何故なら、その二本の腕に沢山の乗客の命を乗せているからだ。彼らは勇者だといえよう。
何故、左側の席に座らないのか、その理由は至って簡単だ。その席には先客がいる、いつも。
焦茶の髪を背の真ん中辺りまで伸ばし、濃い色のスーツを着て彼女は窓の外をじぃっと眺めている。
行きのバスも、帰りのバスも一緒だ。
春夏秋冬、晴れ、曇り、雨、時に雪。それしかバリエーションの無い景色を飽きる事なく彼女はいつも窓の外を見ている。しかも、解放感ある目前の窓からではなく側面の窓から。
何故?
「香也~」
呼ばれて振り返れば隣席の少年。名前は覚えていないが、季節の漢字が入る気がする。
というか何故ひとが考えてる最中に話し掛けるのだろう。今、とてつもない閃きがこの頭に訪れようとしていたのに。
「誰………?」
「篠崎冬史だよ。中学から…五年も一緒なんだけど?」
「ごめん、興味無いことは覚えない主義だから」
「さりげなく謝ってないよな、ソレ。もういいよ、お前に名前聞かれるのもう何十回目だし」
あらまァそんなに。ご苦労様です。
可哀想な人だ。何回も名前を聞かれるのは腹立たしいだろうに。こんな奴と五年間同じ学校になってしまった君に同情する。あと一年残っているが頑張りたまえ。
心内で正式に謝り、この話を終わらせ白紙のノートを見つめる。
何を考えていたんだっけ?
そうだ、バスカードの残りが少なくなっていた。今度買っとかなくちゃ。
「あのさ、まだ用件すんでないんだけど…」
「え? あ、ごめん。聞く気ない」
こんな風に白紙を見つめていても、彼女の残像が見えてくる。会話もしたことがなければ、名前すら知らない人なのに。
何故?
頭を使うのは苦手だから、早々に答えが出てくれればいいのだけれど。
「君、いつも其処に座ってるよね」
「え…?」
読んでいた小説から顔を上げると、通路を挟んだ向こう側の彼女が微笑みかけていた。
小説をパタンと閉じ改めてその顔をじぃっと見る。二十歳ぐらい、という印象を受けるけれど、顔付きは十代後半にも見える。二、三歳しか変わらないんじゃないか、自分でもそう思うけれど、女は一、二歳だろうと若く見られたいのよと母は言っていた。
綺麗な人だ。
「どうも、こんにちわ」
「こんにちわ。ねぇ、同じ小説をずっと読んでるけど、そんなに面白いの?」
「…見てたんですか?」
意外だ。
窓の外を見ている姿しか目にしていなかったから。此方を見ていたなんて…小説読んでたから気付かなかったのだろう。多分。
そこでまた疑問が生まれる。何で此方を見ていたのだろう?
「あ、ごめん。じろじろ見てたとかそういうんじゃなくて…」
「面白い、と言えるのかもしれない…」
「え?」
「本好きなんですか」
「好き、かな。その本も、私持ってるのよ」
これまた意外だ。こんな名の売れてない作家の本を持っているとは、余程の本好きなのだろう。
明るくスポーティーな見た目に反して、文学的な人らしい。
「…もう君の降りる所じゃない?」
「えっ、あ、やばっ」
ガタガタと慌ただしくボタンを押し、立ち上がる。
クスリ、と彼女は笑い呟いた。
「じゃあね、香也君」
「えっ………?」
閉じたドアの向こう、此方を向いて手を振る彼女の姿を呆然と見送る。
何で名前を知っているんだ?
何で名前を呼ばれただけで、頭が真っ白になったんだ?
………はて。
謎だらけだ、あの人は。
全く。考えるのは苦手なのに。それでも、彼女の事を考えるのは嫌じゃない。
─────これを世では恋というのだろうか?
#57
PR