――――気にくわねェ野郎のままでいいんでィ
――――その大事なもんにアイツも入っちまってんだろ
あのとき、旦那はそう言った。
―――当たり前だ。だって姉上の大切な人なんだから。姉上の大切な人は、俺にとっても大切なんだ。
―――だけど、いまは?
姉上は、もうどこにもいない。・・・俺にとって、アイツはなんなんだろう。大切、なのか?
まさか。
姉上じゃなくてアイツが死ねばよかったのに、と思った事はあるけど八つ当りだ。そんなの。それに真撰組には必要な人だし。俺なんかより。
そういえばあれ以来、土方さんとは話をしていない。それについて近藤さんも口をはさみたがりそうだったが、口を開いては閉じ――の繰り返しだ。
「沖田さーん」
「なんでィ?」
山崎はマスクに冷えピタという思いっきり風邪っぴきだという格好をしている。
「風邪引いちゃったんで、明日の見廻り、他の人にかわってもらいました」
「ふーん。誰に?」
「あ・・・の、・・・それが・・・・・・」
もじもじと躊躇う山崎に沖田は痺れをきらした。
「誰なんですかィ?」
「その・・・空いてる人が副長しかいなくて・・・」
・・・シフト作ったの自分なのに、絶対明日俺だってコト忘れてんな、こりゃあ。本当土方なんは馬鹿だ。
「すみません・・・」
「別に」
*
「じゃ、行ってきやーす」
「・・・行ってくる」
朝、部屋をでるなり俺がいて、とてつもなく驚いてた。どうやらシフト表を見てなかったらしい。馬鹿だよなァ。やっぱこの人。
見廻り中も、会話のかの字もしなかった。目も合わさないし。
―――やっぱり仲直りしとけばよかった。
団子とか奢ってもらえないし。苛める相手、山崎じゃ物足りないし。ってか仲直りなのか?
―――後ろから斬り付けたらどうだろう。
と思ったら、土方さんは携帯を取り出した。
「―――ああ、もしもし?俺だ。いまから帰る」
『了解。総悟は――――』
ツーツー。
・・・・・・・・・俺のコトは報告してくんねェわけ?
渋々、ポケットマネーを握り公衆電話から屯所へかけた。
「あ、もしもし?近藤さんですかィ?」
『あ、総悟か?』
「そうでさァ。いまから帰るんで」
『おう。わかった』
「あ、そうだ。電話代って経費からおりやすよね?」
『ああ・・』
「あ、土方さん言っちまったィ。じゃ」
『あ、オイ・・』
ツーツー。
電話の向こう、受話器を見つめながら近藤は呟いた。
「・・なんか今回の喧嘩は激しいなァ」
小走りでおいかけたが、流石は韋駄天走りの土方。中々追い付けない。
「あっ・・・!」
急に子猫が飛び出してきて、転んでしまった。
腕の中を見ると――――。大丈夫だ。つぶれてない。
・・・にしても、痛い。
「・・・大丈夫か?」
パッと顔を上げると、土方さんが煙草をくわえながら手を差し出している。
払うか、掴むか。
取り敢えず手を伸ばすとグイッと手首を掴まれ簡単に立たされた。脱臼するかと思う程痛かったけど。
「ニャーオ」
腕の中の子猫は、俺の服を掴んでて離そうとしても離れなかった。
「・・・土方さん」
久しぶりに、名を呼び掛けてみた。
「・・・なんだよ」
・・・なんか、答え方がぎこちない。笑える。
「この猫飼いやしょうよ」
「わかってんだろ?ダメだ、ってよ・・・」
「いいじゃねぇかィ。このまま死なせる気なんで?この猫・・・・・・」
「・・・」
死なせずに済むなら死なせたくない。なんて言うのはおかしいだろうか。こんな仕事をしていて。
「わかった、飼い主見つかるまでな」
「さっすが土方さん。物分かりがいいでさァ」
「あのな・・・」
土方は呆れ半分で苦笑した。煽てりゃいいと思いやがって、と。
「よし、じゃあさっさと帰りやしょう。近藤さんが待ってらァ」
二人は蒼い空の下、軽快に歩きだした。
唐突に浮かびました。
大切な人の死は簡単に受け入れられないけど、それでも人は生きていける。