掴み、というものは大切だとは思う。だけど沖田の掴み方は非常に間違っている。いきなり同性にむかってするか?帰国子女でもあるまいし。って子女か?
ma cherie 第三話
「おっまえ何しやがんだよっ!」
「なんですかィ?ファーストキスじゃないんだし。いいじゃねぇですかィ」
「同性とは初めてだっ!」
「五月蠅ェなァ。生娘でもあるまいし」
さり気なくすげぇ事言ってねぇ?呆れてものも言えねぇってこういう時のことだな。きっと。
「さ、予定詰まってんだろィ?アンタ。馬鹿げた議論してる暇はありやせん。おとなしくしてろィ」
「・・本当に大丈夫なんだよな?」
少し、不安だ。消費税の計算さえ出来ねぇ奴がカメラもメイクも出来る、とは信じにくい。
「そうですねィ・・。アンタが満足するかはわかりやせん。気に入らなかったらチェンジでもしなせぇ」
チェンジ、ってお前の仕事はなんだとききたくなるよな。
「ま、なるようになりまさァ」
たしかに。
*
「さ、どうでィ。チェンジ頼みやすかィ?」
「・・凄くねェ?おまえ」
非のつけようが、ない。まぁ男は化粧なんざしなくて多少調えりゃいいんだが、きっと女の化粧も上手なんだろう。
「気に入ってもらえて何よりでさぁ」
万更でもないように照れ笑いをする沖田に少し見惚れた。それを隠すようにぶっきら棒な口調で話かける。
「珍しいよな。カメラマンで化粧までできるなんてよ」
「俺的にはメイクできねぇ方がおかしいと思うんですがねィ・・。だってさ、気に入った被写体を自分好みに調教して自分の好きなように撮れるんですぜ?最高じゃねぇですかィ」
確かにわかるが、調教って・・。蛇に睨まれた蛙みてぇな感じ?俺。でも、好きな事を自分が満足出来る位できるなんて羨ましいと思う。
「さ、とりやしょう?」
・・彼は、俺なんかのどこが気に入ったんだろう。というか、気に入ってるのか?あれ程の腕があるならば、俺なんか足元にも及ばない程有名なモデルとかの下にだってつけると思うのだが。
なんで、なのだろう。
「・・やっぱ土方さんはいいなァ。撮りやすい」
今日撮った写真を月明かりに照らしながら沖田は呟いた。俺なんかのどこがいいのかわかんねぇって。マジで。
「どこがいいんだよ?」
「・・秘密」
「ハァァァァ!?何だよそれっ」
「・・焦らしてみようかと」
前を行く総悟の表情はわからないが、きっと笑っているのだろう。声が弾んでる。
「あのなァ・・」
「お、流れ星ですぜ!」
上を見上げると漆黒の空を白い輝が横断していた。
流れ星なんか久々に見たな・・。
「よし、次流れたら願い事唱えなきゃなァ・・」
そんな事すんの女子供だけだと思っていたが、男にもいるらしい。
「アンタも・・あっ!」
また星が落ちた。総悟は両手をくんで目をつぶっている。
願い、か・・。
俺は・・・。
「よし、三回唱えられやした。アンタは?土方さん」
「俺?別に願いなんざねぇよ」
「悲しいなァ。あんたの人生」
「うっせぇな!願いがねぇぐらいで人の人生の善し悪し決めんな!」
「ま、可哀想なのはホントの事ですがねィ」
なんかすんごいムカつくんですけど?年下に可哀想なんて言われたかァねぇよ。
「お前は何願ったんだよ」
「この世は等価交換でなりたってんですぜィ?タダで聞こうなんて思うなよ」
「お前何処の誰だよ・・」
星の輝く月夜に願う事は?
はい、三話目にしてまだ二日しか経ってません。何話で終わるのかしら?
・・土方さんも私も沖田に引っ張られてます。一人歩きさせちゃいけません。沖田さんを。なんせ彼は大魔王・・。