“沖田”と“土方”という人物の接点は、“モデル”という“職業”にしかない、と思っていた。ほかに、接点の作りようがないし。
俺らの関係は“夜だけの関係”だと思っていたから。
あ、なんかアダルトって感じ?まぁ、仕事の関係だけだけど。
いまは、ね。
Ma cherie 第四話
「おーい総一郎君、なんか友達ー」
「旦那ァ、総一郎じゃなくて総悟でさァ」
食堂の向こう、入り口あたりから呼び掛けるというか叫ぶ旦那に律儀につっこみ
ちょうど食べ終えたランチを持って入り口へ向かう。
友達?誰だろう。近藤さんかな?でもそれだったら旦那も知ってるはずだし。
「あら、総悟君。オレンジジュースまだ一口残ってるわよ」
食堂のおばさんに言われ、コップを見ると確かにまだ少し残っていた。
「あ、すいやせん」
ズズッ、と啜りながらも考える。
誰だ?
「御馳走様でしたィ」
足早にその場を去ろう、としたら・・・。
「あ、待って」
振り返るとおばさんがカウンターから身を乗り出している。何か、片手に持って。
「これ、お友達と一緒に食べなさいな。」
「はぁ・・。ありがとうごぜぇやす」
中々可愛らしくラッピングしてある。中身が楽しみだ。
「いいなァ。あのおばさん総一郎君にしかそーゆーモンやんねぇんだよ」
「今回はやりやせん。次もらった時、一緒に食べやしょや」
「約束な。次回はパフェだといいなァ・・。あ、そうだ。なんか中庭のほうにいるってよ。オトモダチ」
「へいよ。じゃっ」
*
向こうから総悟が走ってきた。きょろきょろ辺りを見回しながら。
なんか遠くから見てると迷子になった子供みたいだ。
「総悟」
呼び掛けるとこっちを見て少し目を見開き、全速力でかけてきた。
やっぱ、似てる。迷子の子供に。
顔が、親を見つけたときそのものだ。
「土・・・方さん、ですよねィ?」
「ああ」
「有名なモデルがこんなとこきていいんですかィ!?」
声を荒立て、眉間にしわを寄せ俺を見下ろす姿は親を思い出す。親、っつうか姉さんだな。
「ばれなきゃいいんだよ。ばれなきゃ、な。まぁとりあえず座れよ」
促されるまま、沖田は隣に腰を下ろした。少し膨れていたが、面影は何処かうれしそうだ。
「・・なんか、用でもおありで?」
「別に。暇だったからよ」
「ハァァァァ!?あんた自覚あんの?ファンクラブ持ってるんてすぜ?ここにだって、町中にだって、あんたのファンがいるんですぜ?いくら変装してるから、って・・」
信じられない、といった表情をされても。誰にもばれなかったし?(それはそれで
しいけど)結果オーライなんじゃねぇの?駄目なのか?それでも。
「・・もういいや。あんた馬鹿すぎ。何言っても駄目だな」
「んなこたァねぇよ!」
「じゃあ今度は女装でもしてきなせぇ。今度があったなら」
「俺一人じゃできねぇよ」
それ依然にしたくはないが。
「・・コレでも、食いやすか。疲れたし」
そういって総悟は手に持っていた包みのリボンを解いた。さっきから何だろう、と思っていたが、どうやらお菓子だったらしい。包みを開いた瞬間甘い芳香りが鼻を掠めた。
「ああ、それか。どうしたんだ?」
「おばちゃんにもらった。あ、クッキーでさァ」
星やハート型などの、シンプルなクッキーが小さな入れ物の中犇めきあっていた。
沖田は手にとり、パクッとうまそうに食べた。そして、土方にむかってクッキーを一枚、差し出した。
「・・なんだよ」
「あーん。一回百円でしてやりまさァ」
「しなくていいっつーの!っつうか金とんのかよ」
そういうと沖田は手に持っていたクッキーを自分の口に運んだ。
「俺があんたみてぇな男にやるワケねぇだろィ?」
「まぁな」
そう言った土方を沖田は一瞬見つめ、何か呟いた。
ゴールが霞んで見えません。