“愛”なんてこの世の中で比類がない程信用できないもので、“愛”は“裏切り”の代名詞だ。
そう思わせたのは母だった気がする。
幼い頃の、微かな記憶。
“愛”なんてものは“幻想”で、俺には全く関係ないものだと思っている。
さぁ、どう溶かす?俺の心を。
Ma cherie 第十三話
「お前、布団あるよな?」
「ねぇでさ」
「ハァァァァ!?」
段ボール三個も持たされ、前が見えない状態で、お先真っ暗な事を言われ、危う段ボールを落とすかと思った。
「おまっ、何処で寝てんだよ」
「友達ん家。布団は随分前に穴あいたんで捨てたなァ。確か」
家がある意味、あるのだろうか。というか最初からソイツん家行っときゃいいんじゃねぇの?
「・・っじかたさん!」
「うおっ!」
急に服を掴まれ思いっきり尻餅をついた。しかも、その上に段ボールが降ってきた。
「なっ・・・!」
何すんだ!と叫ぼうとしたが、先程自分が歩いていた位置を車が物凄い速さで通過して行き、絶句した。
「車に引かれないようにしてやったんですぜ?」
その気持ちはありがたい。
しかも助かったのだから文句を言うべきではない・・・とは思うが。
「・・・てめぇがコレ持たねぇからこうなるんだよ」
二個、ならちょうど視界の邪魔にはならないのだ。
「わかりやした。持ちやすよ」
ヒョイ、と一番大きく、しかし一番軽い箱を持ち沖田は歩き出した。土方も拾いあげ、沖田の後を追おう、としたが――――
道を、蛇行している。
目の前を、とは言っても10m程先を行く沖田は、彼方にフラフラ、此方にフラフラ、と見ていて危なっかしい。
「おい、総悟」
「へい?」
立ち止まったが、そこは道路のど真ん中だ。
土方は荷物を一度起き、沖田を引き寄せた。
「何?車にひかれそうだったんで?」
此方を向いた沖田は本当に不思議そうで、今の行動が素だった事を告げている。
「もういい・・・。お前は荷物持つな」
「持てっつったのはアンタだろィ?」
口を尖らせる沖田から荷物をかっさらい、自分の荷物の上に乱暴に置いた。
「・・・わかりやした。俺が誘導してやりまさぁ」
―――――お前が誘導すると地獄に行きそうだよ
と言うのをグッと堪え、素直に好意・・・をうけることにした。
「あのよ、聞きてぇ事あんだけど」
「その前に、鍵どこですかィ?」
「後ろのポッケ」
「へい」
さ、と沖田が手をのばす前に、土方は一歩、後退した。
「?どうかしやした?」
「自分で開けるからいい。」
「はぁ・・・?」
カチッ、と土方は鍵を開け、昼間だが薄暗い廊下に灯りを灯した。
荷物を寝室に起き、とりあえず茶を飲もうと一息ついた。
「で何聞こうとしてたんで?」
「お前さ、抱き枕持ってる?」
「えぇ。でも捨ててきやした」
やっぱ、持っていたのか・・・。
依然から聞こう、と思っていたことの内一つをきけ、清々しいのとともに、また新たな疑問が。
「なんで捨てたんだ?」
沖田はテレビから視線を外し、ニッコリと土方に向かって笑んだ。
「新しいの見っけたから」
それは、
つまり、
「・・・俺?」
「へい」
・・・最悪だ。これは確信犯だよな、絶対。
布団がねぇってのもある意味計画的なのかも知れないよな。
と思わせるような笑みを沖田は浮かべていた。
「で?まだあるんだろィ?質問が」
先程とはうってかわって、沖田は真剣な顔をしている。
何を聞かれるのか、わかっているような態度だ。
「・・・あのよ、」
土方は覚悟を決め、訊ねた。
「俺なんかの何処がいいんだ?何を求めてんだ?」
山場。