人は“幸せ”になる為に何を犠牲にする?
金?誇り?時間?
“幸せ”になる為に犠牲なんて必要ない、と云うけれど、それは嘘だ。努力した分、結果が出るならその結果こそが“幸せ”なんだろ?ソイツにとって。
ならばその努力した分に價する“時間”こそが犠牲じゃないのか?
――――――俺は“幸せ”になる為に“過去”を犠牲にしよう。
“変革”は望まない。
“幸せ”になる、ただそれだけだ。
Ma cherie 第十話
土方は大抵の朝、二日酔い等をしてない限りは自然と同じ時間に目覚める。
雀の鳴き声で目覚める、というのは自分にとっては普通の事だが、毎朝清々しい気持ちで起きれる、というのは快適な事だと思う。
基本的には。
「ん・・・」
寝返りを打とう、としたが何故か身動き出来ない。
「・・・?」
恐る恐る目を開けたが、一面の黒・・・ではない。何か、ある。目線をあげると――――
「ん・・・」
もぞもぞ、と沖田が動いた。そして、先程より強く、抱き締められた。
ってなんでコイツ此処にいんの?ってなんで俺も背に手を回してんの?
あ、コイツ昨日押し掛けてきたんだ。で、飯食って喧嘩して寝たんだ。
喧嘩してから寝るまでの間に、自分的に大失態を犯した気がするが。
まぁ、忘れよう。俺は何も覚えていない。何も・・・。
ふと、鼻を掠める匂いに気がついた。
・・・不思議だ。昨日は家の風呂入ったんだから、匂いは同じはずなのに、甘い芳香りがする。勿論、俺ン家には甘い芳香りがするモンは全くない。香水はつけてなかったと思ったし・・・。
って、何この状態に満足してんの、俺。
いや、別に満足してねぇぞ?してないけど・・・文句言ってないなら同じか。
・・・随分、コイツに馴染んだな。頭なんて仕事以外絶対に触らせなかったなのに。
――――近藤さんにさえも。
懐柔されたもんだな、俺も。
「オイ、総悟。起きろ」
「ん・・・?」
また少し、身動いだが、また寝入ってしまった。
頭上からスースー寝息が聞こえ、何故かそれにあわせて手が、俺の頭を撫でている。
「オイ、総悟」
「ん~?土方さん・・・?」
声が未だ寝呆けている。
・・・起きるか。
流石に起こすのは可哀相、と思ったが、此処までくると起こすしかない。予定が狂う。
力付くで腕を剥がし、起き上がろう、としたが、抱き枕のように、足も絡み付いていた。
気付かない、俺って・・・?
「オイコラ起きろ!」
「ハァ?俺は起きたいときに・・・起きる・・・」
それは別にいいと思う。
人に迷惑さえかけなけりゃ。
「オイ、起きなけりゃ殴んぞ」
「ぼーりょく変態」
「完璧脳みそ覚醒してんじゃねぇか」
「・・・王子サマのチューで起きるんでさァ」
「・・・永眠させてやろうか?」
「・・・おやすみなせぇ」
困る。いくらなんでも困る。
もう、詰まらない意地をはるのはやめよう。どうせもう何回もされてるのだし。女じゃないんだし。自分からするくらい・・・問題あるわ。
無理矢理、と合意、じゃ全然違う。違法と合法ぐらい違う。
でも、困るし。風呂入る時間なくなるし。
土方はそっ、と顔を沖田に近付けた。
長い睫毛に、白い頬。日に煌めく髪は金色だ。
黙っていれば、どこぞの王子様に見えるのだが。
キス魔だし?笑い方はおかしいし?黙っていれば、いいのに。
・・・それじゃ人形同様だ。そんなの、コイツじゃないか。
目をつぶり、そっと唇を合わせた。
さてと。折り返し地点あたりにはなりましたか?