土方さんを見てて思うことがある。
“人”は心に闇を持っていて、弱いものだな、と。
そしてそれを秘そうとして深みに填まってる。
独りが嫌いなクセに一人が好き。矛盾していると思うけれど、猫みたいで可愛いとも思う。
だから、淋しいときぐらい猫みたく甘えてくれればいいのに。
Ma cherie 第九話
土方には見えない、と思っているのか、沖田は不貞腐れた顔をしている。が、実はカーテンの隙間から零れさす月明かりで土方には辛うじて見えている。
勿論、本人は絶対言わないが。
「なんでそうなんだよ」
「・・・好きなようにしていいって言ったから、でさァ」
「・・だから悪かった、って」
謝りながら、土方は別の事を考えていた。
・・・可愛い、な。コイツ・・・。
なんで大学生がこんな顔するんだ?というかコイツはホントに大学生なのか?
っつうか可愛い、って。本当。なんで男なんだよ。女なら全然問題ないのに・・・って何考えてんだ。大丈夫かよ俺の頭。女だったらって末期症状だぞ。じゃなくて。
沖田は再び土方に背を向けた。これ以上話すことはないと思ったのもあるが、土方がジィーッと見てくるので居たたまれなくなったから、というほうが強いだろう。
ハッ、と土方は気付きその行動が気にくわなくて肩に手をかけた。それを、沖田は手で払った。
「触んなクソッたれ」
その一言に、土方の癇癪玉が弾けた。沸点が、低いのは自負しているが、こればっかはどうしようもない。
それに、こっちはちゃんと謝った。
「んだと?じゃあ出てけよ」
「わかりやした。パジャマは洗濯して返しやす」
そう言い、沖田は布団を出てさっさと玄関に向かって行ってしまった。
非常にマズイ。何がまずいかはわからないが、兎に角機嫌を損ねたのは自分なのだし、直さねば。
・・・抱きつかれるぐらい、いいじゃねぇか。
見た目はいいんだし、そう、弟だ、とでも思えば。
土方は頭の中で必死に自分に言い訳しながら、沖田を追った。
ガッ、と腕を掴み振り向かせた。
「だから離せっ・・・!」
「悪かった」
怒鳴ろうとした沖田を抱き竦め、サラサラの髪に指を絡ませた。
――――――何も、ここまでしなくてもよかったのに。
が、もうしてしまったものはしょうがない。
ゆるゆると、沖田の腕が背に回されるのがわかった。
「まぁ、よしとしてやりまさぁ」
チュ、と頬にキスされた。
「お前、本当キス魔だな」
少し呆れつつ言うと、憤慨したように口を尖らせた。
「最近はアンタ以外にしてやせんよ。土方さん」
「いや、してもいいんだけど?」
そのほうが被害が少ない気がする――――というつもりで言ったら、今度はちゃんとキスされた。言い方がおかしいが、唇に、という意味だ。
と、いうか。この体勢、おかしくねぇか?抱き合ってキスしてんだぞ?相思相愛な恋人通しならわかるが、俺らは恋人通しじゃなけりゃ同性だぞ。
って気付けばまた舌だしてきてるし。なんなのコイツ?
「・・・もう。口開け馬鹿」
「開けじゃねぇだろーが。オイ、てめー誰の許可得てやってんだ?」
「俺と土方さん」
「許可してねぇよ!あれはほかの奴にしろっつー意味だ。さっさと寝るぞ」
「ったく・・・ムードもへったくれもねぇお人でさァ」
「うるせぇ。男相手にんなもん関係あるか」
「へいへい。おやすみー」
「おまっ・・!流すなよっ!」
「不毛な争いはやめやしょや」
たしかに、沖田の言うとおりだ。
だけど。
「事の発端はてめーだろっ!」
まぁとにかく、丸くおさまったのだからいいの・・・だろうか。
これ、やっぱ裏いきじゃありません?