どこか、ひかれていたのかもしれない。その自由奔放な言動に。彼を縛る事ができるものなんてないと思っていた。まぁ辛うじて法律は、守る程度だと。
勝手に決め付けていたんだ。
Ma cherie 第五話
菓子食って、次の仕事の打ち合せを軽くしたところで、鐘が鳴った。この大学、鐘鳴ったっけ。
近藤さんにちょくちょく会いに来たりしてたのだけれど、覚えていない。
「あっ、俺午後から講義あるんでさァ。じゃあ・・」
そう言い、かけだそうとした総悟の手を思いっきり掴んでしまった。
――――予想外。
「ひ・・じかたさん・・?」
あちらも予想外だったらしく目をパチクリさせている。
当たり前だ。掴んだほうだって驚いてんだから。
「何?淋しいんで?一人で帰んの」
嘲笑、というよりは楽しそうに目を細め笑った。本当、総悟は色々な笑い方をすると思う。
「そんなんじゃねぇよ」
土方は不承不承といった表情で強く握っていた手を離した。沖田は手首を確かめるようにもう一方の手で、薄くついている手のあとを優しく撫でた。
「・・サボって、やりやしょうかィ?あんたの為に」
「ンな事すんな。別に・・ただの条件反射だ」
・・多分。
というか条件反射なら殊更可笑しくないか?
なんでコイツにこんな事をしなけりゃいけねぇんだ?っていうか他人の手ェ掴んだのさえ小学校ンとき踊ったホークダンス以来だ。
「図書館で待ってなせェ。あとでむかえに参りまさぁ」
「え・・・?」
恐らく、ぽかんとした顔をしてたのだろう。沖田はまた微笑み背を屈め鼻が触れ合うぐらい近くでじっと土方を見つめた。
なんか、前にもこんな事があった気がする。真っ赤な瞳にうつるたじろいだ自分の姿に、そんな事を思った。
そうだ、会った次の日の事だ。
あの日、コイツに丸めこまれてキスされたんだ。いや、丸めこまれてないか。殴りかかろうとしたが止められたんだ。こんな柔い腕の何処にそんな力があるのか。
「土方さん?・・まぁいいや。じゃいい子にしてるんですよ」
ちゅ、と頬に軽く口付け今度こそ本当にかけて行った。
・・アレ?アイツいま何した?
暫く固まっていたが、カサカサと風に揺れる木の葉の音で思考回路が復活した。
「・・あンのヤロー!!!」
なんて不用心なんだ。自分は。アイツには前科がある、というのに。
もしかして、されたかったのだろうか?
いやいや、絶対ありえねぇ。俺はそんなアブノーマルな変態野郎じゃねぇ。
確かに見た目はもてそうだけど、俺にはそんな気は起こらないしこれからも起こらない、というか起こしたくもない、じゃなくて起こさない、か?
もう訳わかんねぇ。混乱してきた。
・・けど、一つだけ確かな事がある。
アイツの所為で変わりつつある。自分の中の何かが。
小さな変化、かもしれないがそれだって自分にとっちゃ天変地異並の事件だ。変わる前には戻れないのだから。
「・・変化、か・・」
変わりたくなんか、ない。
変わるつもりも、ない。
大丈夫、意識してりゃアイツの傍にいてもいまのままでいられる。大丈夫だ。きっと・・。
己の体を抱くように両腕をしっかりと掴んだ。
あ、土方さん過去になんかあったな。この様子だと。何があったのでしょう。(まだ考えてません)