「さーかーたー君」
がらがらとあけたばかりの扉を、銀時は無表情でまた再び閉めた。
「ちょっ、銀時ぃ!」
その戸を、桂は健気にどんどんと叩いた。銀時は無視し、立ち去ろうとしたが、喧しさについ、立ち止まってしまった。が、扉の硝子越しに銀時の影が見えたのか、喧しさは益々ヒートアップした。
いくら、大晦日の日だからといっても、こういう喧しさは、銀時は好きではない。
面倒臭そうに頭を掻きつつ、銀時は返事をした。
「なんだよ・・・。」
桂は嬉しそうに、叩くのを止め、声を弾ませた。
「年越し蕎麦、食いに行かないかっ」
沈黙の後、ギシッと木が軋む音がし、玄関にむかって来ている、と思った桂は、扉から1歩離れ、わくわくしながら、待った。
―――待った。が、幾分待てども、扉は開かぬし、明かりもつかぬ。
「ぎーんーとーきーくーんっ」
出来るかぎり大声で、叫んだ。が、やはり、居留守をされた。
「ふっ・・・。いい覚悟だな、銀時。この家を爆破してもいい、という事だな?」
両手に爆弾を持ち構えた。すると、がらがら、と切羽詰まった表情をした銀時がでてきた。
「頼むからやめてくっさい。」
「よし、銀時行くぞ!」
金はお前持ちだろうな、と厳しく問い問われつつ、二人は屋台の蕎麦屋へ向かった。
*
「あ、旦那ァ」
「ん、ふぉひふぁふん(あ、沖田君)」
ズビズビと蕎麦をすすっていたところに、運悪く沖田がやってきた。
丁度、銀時で影になり、沖田には桂の姿が見えないはずだが・・・。
沖田は銀時の隣を見て、目を見張った。
「桂・・・っ!」
あ、そうか、俺らは座ってるから上から見えちゃうのか。あちゃー。
・・・ではなくて。弁解?弁明?まぁ兎に角、何だかをしなければ。っつーかその前に蕎麦飲まなきゃな。
「沖田君、これはな、桂じゃねえよ。ヅラだ。」
今まさに抜こうとしている刀をおさえ、にこやか~に制止した。沖田は困惑した表情で坂田を見た後、桂を見た。
「ヅラじゃない!桂だ!」
人が折角誤魔化してやったというのに、何故、こうも・・・。遣る瀬ない。なさすぎる。が、沖田は桂を上回る馬鹿ぶりを発揮した。
「旦那ァ、ヅラ、じゃなくてカツラさんらしいぜ?」
「カツラじゃない!自毛だ!」
「もう煩ぇよ、おまえら・・・。で、沖田君は何故此処に?」
はぁ、と溜め息つきつつ座るように促すと、じゃあお言葉に甘えて、と沖田は座った。
「皆で飲みに行ったんですがねぇ、狭くて。俺狭いトコ嫌いなんですよねィ」
「いいではないか。一人淋しくチビチビやるよりか。」
・・・毎年、一人、または喋れない・・・えーと、あそうそうエリザベスと飲んでるしかないカツラ・・・ではなく、桂は染々と言い返した。
「いや、俺は静かに飲むほうが風流だと思いやすぜ」
そこで二人はアイコンタクトをした。片方は蕎麦を、片方は焼酎を持って――――。
「店主、蕎麦一つと酒を二つ頼む」
「あいよっ」
「ってお前ら何っ!?なんで敵通しで以心伝心してんの!何気ハードボイルドだしっ」
主人公を放っといて、話を進めてる二人に戸惑いつつ、つっこむ。
「まぁいいじゃねぇかィ。皆には黙っとくんでその口止め料だと思えば。ね?」
・・・普通そっちのほうが嫌だろ、という意見は無視の方向?あ、無視の方向ですか。
「・・・此処の蕎麦美味いですねぃ」
「酒も美味いぞ。」
「・・・」
自分を通して仲良くなったカップルの間に座ってる、みたいな気分。こんな気分、あんま味わえないけどさ、味わいたくないよね。居たたまれないしさ。なんで俺、ここに座っちゃったんだろ・・・。つーかさぁ、本当にコイツら敵どーし?意気投合してるしさ。ってゴリラも意気投合してたしなぁ・・・中々相性いいんでないか?追う者、追われる者同士。まぁ、どーせ俺は仲間外れですよーだ。
「ほら、旦那ァ、何ちょびちょび飲んでるですかぃ。もっと一気にいきやしょや」
「そうだぞ、銀時。こうして俺らが酒を呑んでるのはお前のお陰なんだ。さぁ、グイッ、といけ」
そうして、二人がイッキ、イッキ、とコールし始めた。
やるしか、ないな。
別に断ってもいいのに、なんか知らないが、使命感にかられ、一升瓶を掲げた。
「オイ、総悟!」
その瞬間、またまた遠くから声がかかり、三人はビクッ、とした。
沖田は咄嗟に、桂を暖簾の下に追いやった。そして、声の主を恐る恐る、といった具合に見た。
「ひ、土方さん・・・」
いなくなったのに気付き、町内を捜し回ったのだろう、真っ白い息をきらしている。
「お前に言ったよな?帰る時は声かけろ、って。酒呑んだ酔っ払いに囲まれたらどうすんだ?ってよ。」
・・・どんな心配だ。真撰組一の腕を持つ沖田相手に。不貞の輩に絡まれる事について、よりも酔っ払いに絡まれたら、と心配するとは。・・・娘を心配する親父みたいだ。
「・・・じゃああんたと帰りゃあいいんだろィ?じゃ、旦那。ヅラと俺の分食っちゃっていいですぜ」
ああ、と返事し、二人の姿が見えなくなるまで見送った後、後ろを顧みた。
「フー。危なかった・・・」
そういい、冷や汗を拭っている桂の顔には木目がしっかりとついている。
「俺のまわりって・・・。」
「ん?どうした?」
「なんでもねぇよ・・・」
ふと空を見上げると、タイミングをはかったかのようにゴーン、と除夜の鐘が鳴り始めた。
書きおさめがBLチックに読めたらどうしよう。と少し思いましたが平気ですよね。
それでは、よいお年を。