スパン、という、聞いていて爽快な気分になるような音と共に、うぎゃっ、という醜い声が空に響いた。
「っつぁ・・・。醜い、なんてひどくないですか?沖田隊長」
「なんでィ。稽古つけてやってんのに」
「や、でも・・・」
ふざけて言った、というか軽い気持ちで言っただけなのに。
という言葉は沖田が無遠慮で振り落とした竹刀に遮られた。
辛うじて避けきれなかった山崎の頭にまたまた鈍い音とともに鈍痛が。
「・・・トシ」
「あ?なんだ?」
「総悟よぉ、また剣にみがきがかかったよな」
「・・・それ、去年は『これ以上みがきがかからないぐらいいい剣だよな』っつってたぞ。」
ほれぼれとした物言いを、土方は冷たくあしらった。
まぁでもたしかに、と土方は内心思う。去年の今頃の沖田と今の沖田とでは、やはり雰囲気も、剣筋も変わっている。剣に迷いが、ない。なくなっている。・・・正直、いまの沖田には正真正銘の、というか正式な形での勝負では勝てないだろう。土方が好む、喧嘩でなら話は別だが。
――――きっと、ミツバの――姉の死が関係あるのだろう。死んでもいい、と思うようになったのだ。死んだ先に、姉がいるのなら、と。それが、神童、と呼ばれた沖田の剣を、更に速く、華麗にした。
そして、後から近藤から聞いたのだが、その時に本音を漏らした事も、きっと。つーか近藤さんに殴られた事が一番の打撃だったのか・・・。
と考えていた土方に、竹刀が飛んできた。
「うっわぁぁぁぁっ!?」
「チッ、はずしたか」
凡人には避けれない程の速度で投げたのだが、本当に辛うじて、土方が身を屈めたので、髪が少しきれた程度で済んでしまった。
「チッ、じゃねえよ!あっぶねえだろーがっ!」
危うく、顔面に刀が生えるとこだったのだ。土方は縁側から立ち上がり、沖田の頭をどついた。が、土方も近藤と同じく沖田には甘いのでどつく、とは言うものの、効果音にするとポスッという軽い音しかしないであろう強さだ。はたから見たら、戯れ合ってるようにしか見えない。
「いやね、あんたが惚けた顔してたんでとうとうボケたか。と思ったんでさぁ。」
「んで?どっからそこへ繋がんだ?」
土方は焦れったそうに煙草に火をつけた。それをちらっ、と沖田は見てから、真っ黒い笑顔で沖田は言った。
「だから、老化がこれ以上進まないよーに、あんたの時間を止めてあげようと。」
「いらねーお世話だコルァァァァァ!!」
土方は、山崎の剣を取り上げ、沖田へと全力で斬り掛かった。が、沖田はスルリとかわし、ぺろりと舌を出した。
「・・んのクソガキっっ!!」
土方はまんまと沖田の挑発にひっかかった。
やっぱ真撰組はほんわか家族じゃなきゃ。ほのぼのぉ、と。ね。