近藤家の玄関にたたずむ影、二つ。
「近藤さーん、あけおめでさぁー」
「おめでとさん」
「おう、おめでとう。ほら、早くあがってこいよ」
玄関にたたずんでいる二人に、近藤がにこやかに挨拶をし返した。
毎年、この三人は近藤家で年明けを迎えている。土方や沖田は彼女がいるのでは?という疑問は彼等の趣味や好物を見れば、一目瞭然だろう。マヨラーにドS。このコンビについてこれるものは果たしてこの地球上にいるのだろうか。まぁ、そんな事はどうでもいいが。
「よし、じゃあ毎年恒例の小倉百人一首を・・・」
「近藤さん」
「ん?どうした?」
沖田は持参してきた袋をテーブルの上に置いた。
「マンネリでさぁ。ここは新しく、人生ゲームを、」
ね?と強くすすめる。俺と近藤さんは一旦顔を見合わせた。それを総悟は期待の眼差しで見た。別にそんな目で見なくとも近藤は首を縦にふるはずだ。そしてそれに土方が同意するのも既にわかりきっている。
「いいよな?トシ」
「別にどーでもいいよ」
それに新年早々、満面の笑みを浮かべ、沖田は馬鹿げた事を言いだした。
「罰ゲームは女装ですぜ?あ、大丈夫。衣裳は東急ハンズで買ってきやしたんで」
「いや、大丈夫じゃねぇからァァァァァ!何ソレ!?先言えよ!」
「楽しくありやせんか?」
血相を変えて怒鳴る土方に沖田は真顔で聞き返した。いや、楽しくありやせんか?ってよ、まだお前が着るんならざまぁみろって思えるし、こん中じゃ似合うだろうからいいけどよ、近藤さんが着てるトコ想像してみ?たとえば……セーラー服着てトシィ~って走ってくんだぜ?考えただけで・・・。
「たまにはいいかもな、うん。そうしよう」
「・・・って、えぇええぇぇ!?」
ちょ、待てよ。あんた、着る覚悟出来てんのか?俺は着たくねぇぞ?
「まぁ、いいじゃねぇか。少し位羽目外しても、な?」
「・・・・もういいよ」
*
「一千万」
「九百万と千円総悟は?」
少し間があいてから、沖田はいつもと同じ無表情で、だが声はか細く言った。
「・・・九百万、ぴったし・・・」
つーことは。俺が一位で、ビリは、総悟・・・?女装するのは、総悟ということか。
「よし、総悟か。で、どんな服買ったんだ?」
ホッ、としたようにではなく、心底楽しみにしている素振りで近藤は訊ねた。沖田は俯き下を向き、ボソッと答えた。
「在庫処分で半額だったから・・・。チャイナドレスを」
「へぇ~」
にやにやと相槌を打てば、総悟は羞恥心に頬を真っ赤に染め、人生ゲームが入っていた袋(まだ何かが入ってるらしい。少し脹らんでいる)を乱暴に掴んで
「片付けはしといてくだせぇ」
と言い残し廊下へと出てった。
「これどこやんだ・・・?ってトシ、総悟が女装すんのそんなに嬉しいか?」
「え?」
土方が聞き返すと、近藤は楽しそうに笑い、意外な事を言った。
「お前、顔笑ってんぞ?」
「え・・・?」
慌てて顔をさわるが、わかる訳がない。にやけてる?俺が?嘘だ。ありえない。総悟の女装なんざ見ても楽しい事は一つもない。まぁ、少しはいつもの仕返しにはなるかもしれないが。
「・・・ハァ。着やしたぜ・・」
ドア越しに、沖田の沈んだ声が聞こえた。
「お、はやくはやく!
と急かすと、カチャ、と控えめにドアがあいた。
「・・・」
「記念写真でも、とってやろうか?」
ムスッ、とした表情で仁王立ちする沖田に茶化すかのようにいうと、キッとこっちを睨んできた。が、まぁ中々のモンだ。チャイナドレスは真っ赤な生地に、黄色の豪華な刺繍。スリットは、太ももの中程まで入っていて、露出度は低めだが、自分や近藤が着るかもしれなかった、と考えたら目眩がした。髪にもご丁寧に真っ赤な牡丹の髪飾りをつけている。
「・・・もう脱いでいいですかィ?」
居心地悪そうに沖田は座った。
「総悟」
「?はい?」
「記念写真、とるか」
「・・・え?」
沖田も土方も目を点にした。何で、素でそんなこと言えるんだ?ドSの総悟にとって、最大の責め苦だろう。と思い顔を見たら、真っ青になっている。
「よし、カメラ持ってくるからな。」
沖田は後ろ姿を目だけで追い掛けた後、ハァ、ため息を一つはき、御座をかいた。
「てめぇよ、女装してんだから足開くなよ。」
その上に肘をつき、その上に顔をのせ、下から睨みあげてきた。
「うるせぇ楽しんでんじゃねぇよクソ土方」
「言い出しっぺはお前だろ」
「チェッ。あんたが着るとふんだのによ」
けっ、何でもお前の思い通りになると思うなよ。
「総悟、カメラ持ってきたぞ~」
総悟は肩を竦めてから渋々立ち上がり、俺と近藤さんの間に座った。
「じゃあとるぞ~。はい、チーズ」
――――沖田の顔が苦々しかったのは言うまでもない。
最初からこんなんかよ!
では、今年もお願いします。