「私だけの・・・・・・睦流」
ずっと、傍に居てくれるよね?
頭の中で遠い日が鮮明に、蘇る。
蝉の身を削るような叫び声、萎んだ彼岸花。夏の終わりに交わした約束事。
覚えているのは、彼女が残した最後の言葉だったからか。
ねぇ、ずっと―――――
そんなの無理だよ。
と言えなかったのは彼女の眼が真剣だったから。優しい目をしているのに、有無を言わせぬ力強さがあった。
「わかった。絶対、ずっと一緒にいるよ」
そう言ったときの和香の笑みが、眩しかった。
「 」
最後に彼女は俺の顔を両手で包んで妖しげな微笑を浮かべた。
「夢・・・・・?」
先程までの夏の日は一変し、目に映るは自室の天井。肌で感じる冬の冷たさ。
頭をうめつくす、先刻視た夢。
記憶通りではなく、最後の部分が脚色されていた。最後に彼女は何を告げた?
「睦流」
障子越しに、声がかかった。老人のものとは思えぬ、よく通る声。
「・・・お祖父様」
返事をすると、すす、と無音で障子が開いた。
「今日は―――蓮の花が見事に咲き誇っている。・・・和香が好きだった蓮が」
その視線の先を見やると、言葉の通り蓮が花弁を広げている。ここ数年、咲きもしなかったのに、狂い咲いた。
その時、頭の中で和香の声が響いた。
離さないからね
忘れる事も許さないわ
ずっとあなたと私は一緒に――――――
日毎、病んでいった彼女。何よりも孤独を嫌い、“永遠”にしがみついていた。
俺との、永遠に。
叶わない夢が、咲いた。
何故、最近創作するとシリアスに走るのか。そんな気分なのかしら?
幸せは、そのひとによって違うよね、という話です。・・・本当かな?