何かを喪失した後は何かをえる。
そういうモノだと改めて識った。あたたかいココアというものを飲ませてもらって、独りぼっちになってしまった、と思っていた沖田はその温もりと、向かいに座っている銀時たちの存在にガラにもなく目が潤んだ。
眠りの国のアリス
先程の場所からほんの少し歩いた所にある、中々豪華な家に銀時たちは住んでいるらしかった。自分の世界の銀時とは天と地の差がある。
「・・・で、何方なんですか?伯爵。」
自分達にも飲み物を運んできたメガネ、ではなく新八が問う。
「何か俺の事知ってる風だったから連れてきた。つーかよ、名前で呼べよお前ら。」
「・・・何方様?何故伯爵を知っていて?」
銀時らの会話を軽く流し、神楽は沖田に向き直った。
やっぱ似合わねぇ。
チャイナは胡散臭い中国人でなければ。なんかむず痒い。
「俺は沖田でさぁ。知り合いにそこの旦那が似てやしてね。だからついそう呼んじまって・・・。」
「旦那、ねぇ。そこまで偉くありませんよこの人は。伯爵とは名ばかりだし。ね、伯爵?」
胡散臭さが残る沖田の自己紹介にも何も気をとめず、新八は笑顔で沖田に言った。後半は銀時に対してみたいだが・・・まぁ、偉くはないのはどちらにしろかわらないらしい。
「・・・なんかひどくねぇ?今日の新八、ことばが辛辣じゃねぇ?トゲがちくちくささるんだけど。」
「そんな事よりも、この沖田とやらをどうするか決めてくれないと」
「そんな事って何ッ!?仮にも屋敷の主人のガラスハートにヒビいれといてそんなコト扱い!?」
「ハァ。銀ちゃん?私はオブラートにわざわざ包んでウザイって言ってるの。なんで直接言わせるのかしら?」
三人の口論が始まってしまう前に、と沖田は話を聞いてもらうため立ち上がった。
「・・・沖田君?」
呼び方が同じなのに多少驚きながら、沖田は口を開いた。
「俺・・・もう出てくんで。ココア、ありがとうごぜぇやした。」
「なぁ」
そのまま出ていこうとする俺の背中に旦那は声をかけた。何だろ?と思い俺は振り返る。
「お前、たしか土方、って叫んでたよな?」
新八と神楽はビクッ、と土方と言う名に反応した。そして目を見開いて沖田を見つめた。首を傾げつつ沖田は素直に答える。
「えぇ・・・」
「何処から来た?」
先刻、神楽達と戯れていた時よりずっと真剣な声色に、何かが沖田の胸を掠めたが沖田はそれを無視した。
「なんつーか・・・」
「異世界から?」
「はぁ?まぁ、そんな感じっちゃあ・・・」
旦那の口からファンタジーなことばがでるとは。というよか何故自分が此処とは全く違うトコから来たのを知っているのか。というよか何でそんなこときくんだ?
「やっとかぁ。泊まってけよ。部屋あいてっから。」
「え?でも・・・」
「銀さん・・・本当なんですか?沖田さんが・・・」
新八が怖ず怖ずと会話に割り入ってきた。
「そ。間違いねぇだろ。見た目もまあまあだしな。」
上から下まで、じろりと見られあまりいい心地はしながったが、どうやら泊めてくれるらしい。親切はうけとるべきだ。所々意味不明なとこもあったが、沖田はそんな事を気にする前に忘れた。
「じゃあ神楽、案内してやれ。」
アリスはアリス。決められた運命は変えられない。
――――運命は動きだした。
お読みいただき、ありがとうございます。
伏線、て難しいですね。